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▼ 09

「…お前なんか、知らないぞ」


ようよう返したナマエの言葉にバーソロミュー・くまはあっけらかんと答える


「そうだろうな」



お前がそう答えると思ってた、と言わんばかりのバーソロミュー・くまの態度に、ナマエも含めた周囲の者達は「?」と困惑する。

すっかり交戦状態に入っていたユースタス・キッドは「…なんだっつーんだよ、一体」と不機嫌そう。
それはこちらも言いたいことである。"この世界"において、ナマエの知り合いと呼べる者がいたとすれば、それはローだけに他ならないのだ。

構えの姿勢も取らないまま棒立ちしている巨漢に、ナマエは警戒を解かずに問いかける。


「…俺と、どこかで会ったことが?」

「厳密に言えば、ないな」

「……厳密に、言えば?」



おかしな言い方じゃないか。 続けてくまは口を開く。



「おれがお前を見た時、お前は意識を失っていた」


「――!?」
「…!」



何だってんだよこの空気は! 戦闘の構えを解かないでいるユースタス・キッドは、辺りを包んだ不可思議な空気に吠えた。

今、この男は何を言った? ナマエが、意識を失っていた ?


ローが知る限りでは、ナマエはチンケな海賊団の捕虜になっていた。
再会した後に話してくれた内容によれば、板切れに掴まって海を漂流していたと言う。

ナマエも同じような認識だった。

ナマエが"この世界"に来てしまう前には、会社帰りに、部下の者達と居酒屋ハシゴをしていて、酔っ払いながらも自宅に帰っていた"筈"
板切れに寄っかかりながら海を漂流していたと言う重大かつ深刻であるべき問題も、
ローと出会ったことにより 何と表現すれば良いのか……忘れていた、そう、忘れていたのである。己がどれだけ不思議な境遇に見舞われていたのかと言うことを


つまりこのバーソロミュー・くまなる男は、ナマエが"板切れに掴まり漂流していた"よりも前にナマエの姿を何処かで見ていたと言うことになる



「…お前を"飛ばした"のはこのおれだからな。どこへ飛んで行ったかまでは知らなかったが、よもや海の上に降り立っていたとは…」

「飛ばし、た?」

「おれの能力だ」


ナマエの理解の範疇を超えている話題だ。
それまで口を閉ざしていたローがナマエの代わりを務めるように口を開く。
鬼哭から手は放さないまま



「…もっとハキハキ急いで喋れバーソロミュー・くま おれ達も暇じゃねぇし、お前も油を売ってる場合じゃねぇんだろう? ――どうしてナマエを知っている、そして何処で会った、その時ナマエはどんな状態であったのかを簡潔にかつ早急に答えろ。でないと……」


ローの目に見えるあれは疑惑か嫉妬の光だろうか。ローに睨まれながらも、バーソロミュー・くまは無表情のまま「やれやれ」と言ったような様子だ。



「……何処でナマエと出会ったか、これはおれ自身の重要機密に値するから黙秘させてもらおう。そもそも、お前の質問に答える義務もないのだが…まあ義理はある。  ――ナマエ お前は"とある島"の"とある場所"で"とある男"によって発見された。おれがそこに居合わせていたのは偶然だったが、お前が突然その場所に現れたことは偶然ではないのかも知れない。とある男はお前を怪しんだ。だがお前は何度呼びかけても目を覚まさない。とある男はおれにお前の処遇を任せると言って来た。…面倒だったからその体を飛ばさせてもらった。  どうだ?言葉にしてみれば、"たったこれだけ"のことだ。参考にはなったか?トラファルガー・ロー」

「…参考だと…?――ちっともなってやしないだろうが!!」


ローは駆け出した。号令も命令もなかったが、その後にペンギンやシャチ達が続いて行く。
一歩遅れて反対側に立っていたユースタス・キッドもバーソロミュー・くまに向かって行った。

ただ呆然と突っ立っている者は、ナマエだけ。そしてその傍らに控えたのはジャンバールだ



「……、………」

「…………大丈夫か?」



経緯も何も分かっていないだろうに、それでもジャンバールはナマエの青白い顔を心配して声をかけた。この気遣いの良さはさぞ奴隷生活において役に立ったのだろう。
だがその心配の声にナマエは「大丈夫だ」と返すことが出来ない。
疑問が次々と浮かんで来ているのだ。脳の処理が追いつかず、返事すべき言葉も見つからない。


何故、どうして、どんな意図があって自分はこの世界に来てしまったのか



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