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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 08

あらかた道は確保した。海兵達の波に僅かな隙間が出来る。
仲間たちに促されるようにしてそこを駆ける。手に持った銃に弾を詰め込んでいる暇は無かったが、オークション会場の前にたどり着き、自分達の比ではないぐらいの数の海兵を相手にしていたローを見つけた。
何日も開いていたわけじゃない、たった数時間ぶりの再会だったが、"再会"と呼ぶに相応しい事だろう。
向こうも、駆けて来るこちらに気がついたらしい。持っていた鬼哭を振り下げ、「ナマエ!」と名前を口にした。



「怪我はしていないか?ロー」

「誰にそんな事訊いてんだ?ナマエ」



相変わらずの憎まれ口が返って来るのに安堵する。宣言通り怪我はしていないようだが、砲弾が降ったことにより舞い上がった灰を少しばかり被っていた。ほんの少し煤汚れていたローの頬を指先で拭ってやりつつ、オークション会場の周りを見渡した。
海兵を蹴り飛ばしていたベポや銃を撃ち放していたシャチとペンギンも集まってきた。浮かべてくれている笑顔にほっとした。



「他の奴らは?」

「隣のエリアで逃げ道を確保してくれている。早く行こう」



行こう、と目を配せたところで、ローたちの後ろに静かに佇んでいた大きな男と目が合った。…例えるなら日本の昔話に出てきそうな、鬼を思わせる風体だ。彼は?とペンギンに訊ねれば、ローがオークション会場で助けた奴隷の男だと言う。

「ジャンバールだ」

ナマエの視線の意図に気付いた男は律儀に自分から名前を口にした。奴隷として過ごして来たお陰で、他人の意思を汲み取るのに長けているのかも知れない。こちらも丁寧に挨拶をする。ナマエだ、と名乗ったところで、ローが袖を引いた。早く行くぞ、とのことらしい



「海兵はまだ増え続けてんのか?」

「そうらしい。海岸に次々と着岸する海軍船を見た」

「…ったく、嫌になるな。ただでさえ、面倒な海賊どもと鉢合わせしたって言うのに」



面倒な海賊ども? 誰のことだろう、と首をかしげていると、隣を走っていたシャチがコッソリと顔を寄せてくる。「ユースタス海賊団の奴らと、麦わらの奴らっすよ」 ああ、ルフィ君か―― そう言えば、電伝虫で会話をしていた時のローの機嫌の悪さを思い出した。損ねてしまったから、さぞかし後でグチグチ説教されるものではと考えていた。
チラリとローに視線を送る。シャチとの会話が聞こえていたのだろう。ブスっとした表情で一瞥しただけだった。大方、"今は怒る暇はない"と言ったところだろうか。今は大人しく、このシャボンディを駆け抜けておくことにしよう









追ってくる海軍の追撃をかわしながら進む。それを面倒だと思っているのはここにいる全員だが、大変だと感じている者はどうやら自分だけのようだ。

ナマエは改めて感心する。ローは言わずもがなだが、ベポも、シャチも、ペンギンも、そしてジャンバールも、一海兵など相手ではないぐらいに強い。
ベポのカンフーを取り入れた俊敏かつ身軽な動きなんて彼が体の大きなシロクマであることを忘れさせるし、体術、ナイフ、どれを取っても引けを取っていないシャチやペンギンの動きにも目を見張る。
ジャンバールだって体躯の大きさに違わぬ強力で海兵達が通って来ようとした天然の木の橋を拳一つで叩き折ってしまった。


まざまざと感じさせられる、"別次元"の存在


ナマエは迷った。
恥ずかしくなったのだ。
やっと判明した自身の悪魔の実の能力
これをローたちに教えることが。



「……、…」

「…? ナマエ?」


どうしたんだ、怪我でもしたか? 暗い顔を心配したローに目を合わせてやることが出来ない。「大丈夫だ」とだけ返した。
「……そうか?なら…、」
ローもそれ以上は口を開かなかった。 いや、開けなかったのだ。
目の前に立ち塞がってきた存在が、あまりにも巨大であったから



「バーソロミュー・くま…!?」


海岸に見えたあの、巨大な男がいた。 その足元に、対峙している赤い男が見える。あれが恐らく、話に聞き及んでいたユースタス・キッドとその一味の者達だろうか。
ローたちの存在に気が付いたユースタス・キッドが、「げっ」と顔を歪めた。この面倒くさい時に、また面倒な奴らが現れた、と吐き棄てる。

でかい。 なんだあれは。 本当に人間か?


ナマエは顔を蒼白させる。やはり間近で見ると、とても大きな男だ。
ムスっと引き締められた口元と生きた人間から感じられる、生気が感じられない。
まるでロボットみたいじゃないか―――



「悪いが急いでるんでな バーソロミュー・くま そこを通らせてもら……」


ローがROOMを展開する。ユースタス・キッドが腕を鋼鉄に変える。
シャチやベポたちも構えを取って、
それらをただ黙して見ていたバーソロミュー・くまが、重々しく口を開いた




「―――久しぶりだな、ナマエ」




口にしたのは、ナマエの名前だった




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