▼ お姫様と熊の王子様
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今日は普段より奮発して手土産をケーキにした。これは村の人間たちから奪ったものではなく、デュバルが根性を発揮して買いに出かけて手に入れたものだ。
「ちょっくら出かけて来るぬらべっちゃぁ!」「わぁ、いいですねぇ。気をつけてくださーい」
シケたこの島にはケーキなんて洒落たものを売っている店はない。ペットにしているトビウオを駆り出し、隣の島まで直々に向かったのも、やはりナマエへの愛が成せることだな、とデュバルは恋に女にとご執心になっている自分自身が何やら格好いい者のように思えた
1日ぶりのナマエちゃんは元気かな、もっと美人になってやしないかな
たった1日だけの時間なのに、ヘッドは女の変化っぷりを過信してるぜ
と部下たちはゲラゲラ笑った
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見えてくる村はずれのナマエの家 家主を好きだと家まで愛しく見える
しかし、喜び勇んで駆け出そうとしたデュバルの目に、それは異質に映った
「……オイ、様子がおかしくねぇか」
「何がですかい?」
部下に返事はせず、デュバルは走り出した。
嫌な予感がする
とても、嫌な予感が
「ナマエちゃん!!」
家の中に、ナマエの姿がない
「!?」
室内は荒らされていて、ナマエの家の数少ない家具たちが散乱していた
息を切らしながら追いついてきた部下にデュバルは声を飛ばした
「草の根分げても探すんなら!!!」
「え!?ナマエちゃんに何かあったんで?」
デュバルの視線の先の状況を見た部下たちは息を飲む。明らかにそれは、ナマエの身に何かよからぬことが起きたと言うことだ
「や、やべぇ…!お、おい皆行くぞ!」
「あ、ああ!」
島を捜索するチームと、トビウオを駆って海上を探すチームとに分かれる
家の戸を握りつぶさんばかりに力を込め怒りをどうにか鎮めようとしているデュバルへの指示を仰ぐにも仰げないまま、部下は困ったように立ち尽くした
「……ヘッド、行きましょう 誰かにナマエちゃんが浚われたとしても、必ず目撃者がいるはずです」
「………ああ…… 許せねぇべっちゃ…ぜってぇ殺すぬっ殺すぬら!!」
「その意気ですよ!!」
どこの誰がナマエちゃんを誘拐したのかは知らないが、浚った相手が悪かった。
可愛らしいナマエちゃんのことを愛してやまないデュバル兄貴だぞ?
カチコミなら誰にも負けたことないお人なんだぞ!
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