▼ 17
――ペローナたちの方に海賊は行かなかっただろうか。
ようやくそれを考えるだけの余裕が生まれた頃、手近なところにいた海賊たちは粗方のした後だった。よもやミホークから貰った護刀だけで太刀打ちできたわけではなく、味方していた海兵から借りた銃剣で相手にしていたのだが、明らかに強さが"偉大なる航路"にのさばっている通常の海賊たちよりも格下なのが分かる。"急ごしらえ"と言う言葉が当て嵌まるかもしれない。白ひげの死とは、一般だった男たちを海賊へと変えてしまった。それほど白ひげが途轍もない存在だったのだと死後改めて思い知らされる。
ペローナなら、これぐらいの海賊が10人がかりで来ようが大丈夫そうだ。心配を信頼に変えて、ナマエは他にはもういないだろうかと視線をめぐらせる。海軍たちも決して強いわけではなかったが、制圧は完了していたようだ。海賊たちが乗ってきていた海賊船を占拠し、船長と思しき男を縄で拘束している。
最初に言葉を交わした海兵の男が「ご協力感謝します!」と一仕事を終えた爽やかな表情で駆け寄ってくる。大丈夫だと答え、ミホークの護刀を懐に仕舞う。借りていた銃剣も返却した。
「今後新手が現れる可能性は?」
「沖にいる巡視船からの報告では他の海賊船の船影はないそうです」
「じゃあもう船を出しても…」
「それは申し訳ありませんが、一兵卒の自分には応えかねます。今回のご協力は有り難いのですが、上からの解放令が出るまでは暫くのご滞在を…」
それならそうで別に問題はない。どちらにせよミホークが迎えに来るまでは待っていなくてはならない話だ。
「そうか分かった。すまんな」「いえ、此方こそ本当にありがとうございました」
最後は礼儀正しく敬礼してくれた海兵とはそこで別れ、ペローナを待たせている宿屋へ戻ることにする。
さて、彼女はさぞかしご立腹のことだろう。
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「今日のデザートにチョコタルトとイチゴマカロンを作れ! でないとネガらせる!」
「わ、分かったから落ち着け!ホロウを出すのは止めろ!!」
宿屋に帰るなり早々、案の定怒り心頭のペローナからの手酷い出迎えを受ける。
彼女に何かありました?とこっそり女将に事情を訊けば、ペローナはナマエの言いつけを守り、宿屋に侵入を果たしてきた海賊たちを片っ端から片付けてくれたらしい。
女将さんは「こんな最下層な宿屋まで狙って来るような奴らなんてお嬢ちゃんの相手じゃなかったよ」と笑う。ペローナのことを気に入ったようだ。
「良くやったじゃねぇかペローナ〜 これはタルトとマカロンの他にアイスクリームもつけてやるぞ!」
「!」
『ホロホロ!』
「え、ホロウも食べるつもりか?」
フワフワと浮遊していたペローナが傘を閉じ、思い切り伸し掛かってきた。
「ぐおっ!?」 腹が! 頼むから腹には乗るな!と叫んでも、ペローナは聞き入れない。
「汗も掻いちまったじゃねぇかこのヤロー! 罰としてあん時買ってくれなかったフリルの服も買えー!」
「そ、それはダメだ……節約……」
「うるっせぇー!!」
傘で殴るのもやめろこの暴力娘が! だまれバカナマエ!!
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