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01



アメリカ・テキサス州の農村地帯を抜けた辺鄙な田舎道を 一台の軽トラックがガタガタと喧しい音を立てながら走行している。
運転手である男は寝ぼけ眼に生欠伸をしており、ぼんやりとした表情に より一層の"やる気のなさ"を窺わせていた。彼と言う男は平素からこうである。これから仕事をしに行っている人間とは到底思われないだろう。
男が運転しているトラックの荷台には、今は何も積まれていない。
とある場所にまで、それを"回収"しに向かっている最中だったのだ。





「こんちわーイェーガーさーん 廃品回収の者ですがーー」

「今は留守だ!!」

「なんて露骨な嘘吐いてんですかー。今日も倉庫の方ですよね?入ってもいいですかはいでは失礼しまーす」


適当な返事と共に、鍵の無い倉庫の扉を開けることはとても容易く、次いで奥から飛んできたレンチの攻撃を躱すこともすっかり慣れたことだった。
対象を外れたレンチが壁にぶつかり派手な金属音を鳴らす。
勝手に侵入した男は、得意げに胸を逸らした。


「ノーコンですねぇイェーガーさん。アメフトのボールじゃないと上手く投げられないんで、」
「隙ありだ!!」
「おぐっ!!」


追撃のバスケットボールは避けられなかった。

見事な軌道で飛んできたボールがそのまま脳天に直撃し、男は大の字の格好のまま後ろへ倒れた。


「あぁ…お星様がみえる……」
「そのままこっちに帰って来るなよ、いいな」
「イェーガーさん…なんて人なんだ……ごくあくにん……」


「パパ? さっき何かとても大きな音がしたけど どうかし……あぁ、なんだセディスが来てたのね」
「ハロー、テッサちゃん…今日も美人だね……」
「ハロー、セディス 今日もタンコブ酷そうね?」


倉庫へと顔を出しに来た少女へ薄い笑みを見せた男に、ケイドは不機嫌な態度で扉を指し示した。


「テッサ、そんな男とお喋りなんかしないでいい。さっさと外に放り出して来い」

しかし父親のその言葉に、娘は眉を釣り上げて反発の意を示す。床に倒れていた男を援護する姿勢だ。

「嫌よ、何を言ってるのパパ。セディスは仕事をしに来たのよ?」
「何が仕事なもんか!そいつは毎度毎度、俺の作った作品を…」


「イェーガーさーん、これ回収してってもいいですかー?」
「…それは商品だ!」
「ならこっちのはー?」
「それも!廃品じゃない!! …あぁもういい加減にしろ、セディス!!」



テキサスの片田舎で廃品回収作業屋をしている男……セディスは、ケイド・イェーガーが従業員他一名と共に経営している寂れた修理屋に頻繁に足を運んでは、ケイドの発明した作品(テッサ曰く"ガラクタ")に二束三文の値を付けて"廃品回収"の名目の元引き取り、更にそれを下位の市場へと流すことによって、日々の生計を立てている。
勿論発明家本人であるケイドからの当たりは強く、訪問するごとに生傷は絶えないが、娘のテッサからは一定の支持を集めていた。二束三文になろうが、ガラクタがお金になるのなら彼女にとっては喜びとなるのだろう。
だがケイドからは、やはり今日も今日とてお怒りばかりを買っていた。


「イェーガーさん、これなんて3ドルで引き取りますけど…」
「それは35ドルの価値になる予定の商品だ!触るな!」
「うわっついにイェーガーさんバット取り出してきた!これはダメなやつだ!ケツバットのやつだ!」
「パパやめてよ!セディスは何も悪いことしてないでしょ!」
「うーんいつもオレの援護に回ってくれるテッサちゃんのことは凄くありがたいんだけどこの場合は火に油を」
「歯を食いしばれセディス!!」
「注いでるあイター!!」



イェーガーロボット工房内に景気のいい音が鳴り響いた。今日もケイドは全力でフルスイングである。

見事に床に沈んだセディスへと駆け寄ったテッサは「起きてセディス!」と肩を揺さぶったが反応らしい反応はなし。
そしていつものようにケイドがセディスを外へと放り捨て、この一連の流れは終了する。

本日もセディスが回収出来た廃品は、ゼロであった。