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ぼくのおうさま


――誰かのことを 嫉妬の感情なしで『憧れる』ことは難しい、とナマエは思う。
ましてやナマエは、今年中学に上がったばかりで まだまだ子どもである。まだ他人のことは愚か、自身の人間性ですら上手く把握出来ていない。
にも関わらずナマエと言う人間の根幹は、ある一人の人間に『憧れ』の念を抱いてしまっていた。
だがそもそもそれが本当に『憧れ』であるのかが疑わしい。
憧れよりも理解しやすい、『嫉妬』ではないかと疑ってみたがどうもそれ単品だけと決め付けるとすんなり行かない。なのでやはりナマエは、これが『憧れ』であると決定付けた上で、目の前にいる小さな身体を畏怖を込めて見下ろすことにした。
「ねぇ」とその対象が声をかけてくる。ナマエはなるべく真面目な声色で返事を試みた。


「なんでしょうか、童帝さま」
「だから、アンタにそんな呼び方されると気味悪いからやめてって言ってんの!」
「命の恩人には様だってつけます。常識なんでしょう?」
「あーもうこのバカ!アンタみたいな融通利かないバカ見てると腹立ってくる!」
「もももも申し訳ないです童帝さま!」
「腹立ったらとうぶん足りなくなったんだけど!」
「はいすぐにそこの駄菓子やで買ってきます!」



ヒーローに憧れる少年と言うよりかは、ヒーローの為に貢ぐファンと言う感じだが現況を疎んじていることはない。
ちょうど一ヶ月前のある日。
カバのようなクマのような怪人に襲われたナマエを助けたのが、天才頭脳の持ち主である小学生の童帝だった。S級ヒーローがわざわざ出動してくれたわけではなく、ただ学校帰りだったので居合わせたらしい。
そんな些細な幸運で、ナマエの命は助かったのだ。少ない小遣いでお菓子を買うぐらい、なんてことはない恩返しだ。


「ちょっと手ぇ貸してあげただけなのに、毎日まいにち小学校で張って待ってるとか……まさかこんなストーカーのお兄ちゃんだとは思わなかったよ…」
「ストーカーではありません!取り巻きです!」
「ぼくが迷惑してるって時点で立派なストーカーだよ!もう!」


10円ヨーグルトを頬張りながら怒る童帝に、ナマエはほんの少しだけ申し訳ない気持ちになったがこの「取り巻き」行為をやめると言う選択肢は生まれなかった。


ナマエは「童帝」に『憧れ』ている。
たぶん、 おそらく、 ぜったいに、 『嫉妬』 は含まれていない。

なのでこうして 放課後に小学校を訪れ童帝の下校に付き添う行動も、他意はないのだ。


「あーもう頭いたい…ぼくの大切な頭がイっちゃったらどうしてくれるのさ…」
「えっ!? も、もっとお菓子要ります!?」
「〜っ、とうぶんの問題だけじゃない!  …笛ラムネな!」
「はい!!」