一撃 | ナノ
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はじめまして好きです


破損したパーツ修復の為に戻ったクセーノ博士のラボから、見知らぬ女が出て来た。
一瞬、博士の彼女かと考えてしまった己の無粋さが憎く思えた。

なんと言うことはない、女は博士の新しい助手なのだそうだ。


「女で機械弄りが趣味とは、珍しいな」
「…変、ですか」
「いや。良いんじゃないか?」


そう言うと彼女はあからさまに安堵したような表情を見せた。

外見年齢では、俺とそう変わらない年恰好の女に見えるが、挙動や仕草に無駄が無く、キビキビ動いている様子は大人びている。工具やデータ票を弄る手付きも手馴れているし、オイルに汚れたつなぎ姿が彼女によく似合っていると感じた。観察結果は以上

「ナマエちゃんは物知りじゃよ。メカニカルの素質がある女の子と言うのはいいものじゃな。ジェノスもそう思わんかね?」
クセーノ博士は俺に意見を訊ねて来られたが生憎俺から彼女について言うことは
「…メンテナンスのことでたびたび世話になると思う。その時には、よろしく頼む」ぐらいだろうか?相変わらず己の口下手さと言うか、社交性の無さには少し反省する。明るければ良いと言うものではないが、ヒーロー協会の人間となった今、少しは周りに向けられる程度の愛想は備えておくべきなのかも知れない…。


「……! はい!任せてください!!」


だが 俺の心配を他所に、彼女はこれでもかと 笑顔になる。

――頼られて、嬉しい

彼女の笑顔から、そんな気持ちが読み取れたような気がして、面食らう。
しかし、悪い気分にはならなかった。機械に携わるのが、本当に大好きなのだろう。


「修復前にまず、身体の汚れを落とした方が良さそうですね!私、タオル水に濡らしてきます!」
どうやら俄然やる気になったらしい。
張り切りだした彼女がタオルなど必要物を取りに行くため隣室に行ったタイミングで、クセーノ博士を伺った。


「…気持ちのよい性格の子ですね」


思ったことを素直に口に出せば、クセーノ博士は楽しそうに「そうじゃろう」と胸を張り、その後にわざとらしく俺の他に誰もいない研究室を見渡して、「…これは秘密にしておいてくれと言われたんじゃが、」と口火を切った。


「ナマエちゃんは、昔ジェノスに助けられたことがあったそうじゃ」
「え…俺が、ですか?」
「2年ほど前に、ある工場で使われていた産業用ロボットが暴走して人々を襲っていた事件があったじゃろう」


微かに記憶の線に触れるものがある。
 ああそうだ、確かにそんな事があった。大きなロボットで、焼却するのに手間取った覚えがある。だが動きは鈍重で、一、二発の蹴り技で仕留めたんだ。


「そこで偶然居合わせたナマエちゃんが襲われそうになったとき、間一髪で助けに入ってくれたのがお前さんだったらしいぞ」
「……覚えが、」
「まあ、そうじゃろうな。ナマエちゃんも言っていた。『私のことをジェノスさんは覚えてないでしょうが、それでもいいんです』とな」
「……そうですか。…でも、俺には」
「そう、すでに関係のない話じゃ。わしから聞いたと言うことは秘密にしておくんじゃぞ」
「 はい」


――ともすれば、どう言うことだろう?彼女は、俺に恩返しがしたくてクセーノ博士のラボで働くことにしたと言うことなのか?


「…そんなことも、あるものなのか」



「ジェノスさん、博士、お待たせしました!洗剤が空になっていたので新しいのを補充してたら遅くなっちゃいまして…」慌しく彼女が帰って来る。 そうだ、俺は、さっきの話しを知らないフリをしなくては。しかし知っていることを知らないフリするのは案外難しいのだな、知らなかった。「あ、いや…待っていない」と答えるのにも苦労した。けど、タオルを水で濡らしながら「そうですか? でもごめんなさい」謝る彼女の顔は、とても楽しげだった。やはり、悪い気は しない。