一撃 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
無知は恥なり


夜寝る直前、自宅マンションのベランダから見えた流れ星は隣県に落ちた隕石だった。起きて歯を磨いてつけたテレビでそれを知った。大勢の人間が死んだそうだが、対岸の火事、俺に1ミリも関係のない人間たちのことなんか知ったことではない。それよりも一週間後に控えているプレゼンの企画書が完成していない方が問題で、惨状を報道していたテレビを消してパソコンに向かった。しかし電源を入れてみるが、スクリーンはブラックのまま。どうやらこのタイミングで、大学時代から使っていたパソコンが壊れてしまった。世の中ままならないことばっかり起きる。

無理だ、諦めよう。明日早く起きて会社に行ってやるしかない。
消したテレビを再度つけてみると、今度は別のニュースが流れていた。A市で起きた怪人事件をヒーロー協会の奴が解決したらしい。
ご苦労なことだ。こいつらヒーローは、毎日まいにち、他人の為にあくせく働いているんだろう?考えられない。大怪我を負ったり体の一部を無くしたり、最悪命を落とす場合だってあるらしいのに、何が良くて数ある仕事の中からそれを生業として選んだのかが理解できない。それ相応の報酬、恩赦を与えられているんだろうか。だとしても死ぬのは嫌だ、怖いだろう。死んだことないから分からないが、多分、絶対に痛いはずだ。テレビや雑誌で見かける怪人ってのはえらく恐ろしい見た目をしている。そんなところまで尖がってどうするんだよって言いたくなるようなデザインの奴や、身体全体がワカメや髪の毛で出来ている奴もいたし、ブタの貯金箱に足が生えたような奴もいた。詳しいことは分からないが総じて言えるのはもし俺が奴ら怪人と出くわせばまず間違いなく死ぬということ。平凡な家で生まれ平凡に育ち平凡に常識と体力を身につけ平凡な仕事について平凡に暮らす一般市民てのは大体がそうだと思う。鈍器のような手で殴られれば骨折するし、頭に食らわされれば即死するはずだ。ヒーロー協会のヒーローたちは二、三発ぐらいなら持ちこたえられると聞くが、まずその時点で俺からしてみればありえない。


「…………あ」


そう言えば、冷蔵庫に貯蔵してあるビール缶の底が尽いたんだった。一昨日の夜に切らせてからそのままだ。今日は一日休みなんだし、スーパーにでも行って補充しよう。ついでに夜食用の弁当も買って、栄養ドリンクも買って、また明日から始まる残業に備えなければいけない。
俺みたいな人間を殺すのに怪人なんて必要ないな、なんて思ってしまって、「あ、俺疲れてんな」と独り言まで零してしまった。一人暮らしだから返事をしてくれる親も、彼女もいない。全くもって染みったれたヤモメ生活。あ、サンダルの帯切れてら。


「…………」


ぼんやり昼間の歩道を歩きながら、もし今怪人が突然現れたりしたらどうしようなんて考えてしまう。
こんな帯の切れたサンダルじゃ走って逃げるのも難しいよな。そもそも俺、体力ないんだった。デスクワークばっかりで、外回りじゃないから。いや仮に外回り担当だったとしても怪人から逃げられるほどの脚力なんて培われるものなんだろうか。





「…………無理だな、やっぱり」

「 おはようございます、ナマエさん!」

「お? お? …あ、無免ライダーさんおそようございます。毎日見回りお疲れ様です」

「いえいえ!これが俺のやりたい事ですから! それでは!」


後ろから来てすぐ俺を追い抜いて行った自転車を見送る。

無免ライダーさん、毎日毎日ご苦労様なことだよな。自転車に乗って、自主的に街の見回りなんて。
最近小耳に挟んだ近所の噂によると、無免ライダーさんがヒーロー協会に所属するれっきとした"ヒーロー"だとのことだが、そんなわけないだろう。
どこに 自転車に乗って ヘルメット、ゴーグル、ボディスーツだけで怪人に向かってくヒーローがいるって言うんだ。それに無免ライダーさん、多分俺より身長小さいぞ?

多分「無免ライダー」なんて言うあだ名がそう思わせているんだ。今度本名を聞いてみようか。見かけると挨拶を交わすぐらいの仲だが、俺の名前を向こうは知ってるのに俺が無免ライダーさんの本名を知らないのは不公平だしな。