やめろと叫びたいのは俺の方だ。
どうしてナマエが俺の前に出て行く、やめてくれ、それじゃあナマエが死んでしまう。そんなことは嫌だ、頼むから、頼む、逃げてくれ
その懇願も空しく、俺は、目の前で壁に叩きつけられながら血を吐いて倒れるナマエの姿を見るハメになった。
「悔しい」のか、「悲しい」のかさえ分からない。
こんな結果を招いた俺自身の弱さが「悔しい」のか。大切な友人さえ守れなかったことが「悲しい」のか。両方だろうか、とにかくもう、俺にはこの状況を打破する手段がない。
『あそこで死んだ子、あなたのお友達? じゃああなたもお友達の隣で死になさい』
海人族に掴まれ投げ飛ばされながらも俺の脳裏に浮かんだことは、
――嘘を吐くな。ナマエは死んでなんかいない だった。
「グッ…!!」
軋みを上げる金属素体に更なるダメージを受け、俺は血を吐いて気を失っているナマエの隣へと倒れこむ。
「………、ナマエ……」
手を伸ばしたいが、両腕がない。浴びた酸液の影響で脳内回路にも支障を来たしている。目の前がチカチカと、ブラックアウトとブランクを交互に映し出していた。ただそれでも、視覚スキャンが映し出したのはまだナマエが生存状態にあると言うことだ。強く脳を打ち、腹を強打したせいで出血はしているが、まだ息も脈もある。早く病院に連れて行かなくては、ああでも、どうやって――
「お おいジェノス! おま……生きてんのか それ!? 隣にいんのはお友達クンじゃねーか!」
――サイタマ、先生。
見慣れた顔、姿、聞きなれた声。
溶けかかっている人工心臓に、ようやく"安心感"が芽生える。
「先……生、……」
お願いします、どうか、ナマエを 早く
そんな思いを込め、傍らに立つ先生を見上げる。
先生はいつもと同じ声で
「まあ ちょっと待ってろ」
いや、少し強い口調で、
「いま海珍族とやらをぶっ飛ばすからな」