一撃 | ナノ
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人間のジレンマ


――何が起きたんだ


自分の体のことを省みず特攻したジェノスに対して胸中にあった蟠りを言葉にし叫んだ瞬間、ジェノスと対峙していた海人族と目が合った。そして


『うるさい』


吐かれたのは四文字の言葉と、






「…、…ジェ、ノ」


 なんで、目の前で、ジェノスが、溶けかかってんだ、


金属の体が音を立てながら融解していく。無事だった筈の左腕も、接合部が溶けたせいで地面に落ちる。ギ、ギ、ギ。不安定で鈍い動きのまま顔を動かしたジェノスの黒い虚ろな目と視線が合う。顔を固定している骨組みも抜け落ちている顔で、「…………」俺の無事を視認すると、そのままゆっくりと笑った ような気がした。


海人族が口から放出した液には強い酸性が含まれているらしい。あれを俺が浴びていれば一瞬で死体も残らなかっただろう。
それ程のモノを浴びながらも何とか形状を保っているジェノスは、死んだわけではない。


だから、生きている以上、海人族が追撃を喰らわせようとするのも道理で、


身を挺して俺を護ってくれたジェノスのことを 俺が護ろうとすることも道理に決まっている。



「――やめろ!!!」


背後からジェノスの身体に掴みかかろうとしていた海人族の前に無謀にも飛び出す。策も何もあったものじゃない。これは衝動なんだ、感情の問題じゃない。
象に立ち向かう蟻さながらだ。
けどここで、俺がジェノスを置いて他の人間たちのように逃げ出すのは、絶対にやってはならないことだった。
この結果で俺が死んだとしても、ジェノスの後ろにいながら殺されるよりも、せめてこいつよりも一歩前に出て死ぬ方が、きっと「良かった」と思える筈だ。



『うっとうしいわね』


巨大な手によって俺の身体は一掴みされ、そのまま空中に投げ出される、いや、投げ飛ばされたのが正しい。スローモーションのように光景が流れて行く。
壁に叩きつけられる瞬間、ジェノスが「ナマエ」と呼んだ気がした。返事はしてやれなかった。口から出たのが大量の血液だったからだ。