一撃 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
怪獣が襲いかかってきた


会社を出て暫くした頃、空に雨の気配を感じた。
天気予報を確認していないから定かじゃないが、雨が降るなら困る。一張羅のスーツが濡れてしまえばクリーニング代がかかるし、カバンに入っている仕事に必要な書類たちがおじゃんになれば怒られるだろう。
降り出す前に、どこかの建物に入っておくか、いや待てまだネタを見つけてもないのにそれは駄目だ。

だがネタ探しと言っても、俺の住んでいるJ市は海が近いこともあって観光客が多い。
そのせいで小さなニュースにはいつも事欠かなくて、大雨や台風の影響で高波が発生した とか、サーフィン客が波に呑まれ行方不明、なんてのは探さなくてもザラにあることだ。記事として書くなら、もっと別のことがいい。

そう例えば、




「沿岸の方から怪獣が現れたぞー!!」
「に、逃げろ!!」
「キャアアアアアっ!」




「…………まじでか……」



『海から怪獣がやって来て人々を襲っている』とか……なんて不謹慎なことを考えてた矢先にこれだ!
最近の俺はどうなってるんだ?日頃の行いをもっと改めて神様に今からでも愛される努力をするべきなのか?人生過去かつてないぐらいに最近の怪獣エンカウント率の高さ!



≪緊急避難警報! 今回の海人族襲来について災害レベルが虎から鬼に上がりました!≫


各市にいくつも設置された警報機から早口にアナウンスが流れる。
災害レベルが虎から鬼? えっと何だったっけそれって、上から何番目くらいにやばいレベルなんだっけ忘れた!

俺が今いる場所から事件発生の海岸まではまだ少し距離がある。早く中心部の避難シェルターに逃げれば、大丈夫だと思いたい。 ああ空で雷が鳴った。いつの間にか上空には黒い雷雲がびっしりと覆っていて、そのせいで街全体に暗さが落ちている。



「押すな!」
「早くシェルターへ!」
「ママぁ……!」
「ねぇシェルターってのは何?どこにあるの!?」


観光客らしき女性が、逃げ惑う人たちの流れに背を向け取り乱している。怪人が現れた際に逃げるべき場所が分からないらしい。
人の波について行けば自ずと知れることなんじゃないか、とも思ったが、俺はまだ少しだけだが精神的に余裕がある。

俺は髪を振り乱しているその女性にそっと近付き声をかけた。


「ねぇお願い!誰か!」
「あの」
「!?」
「避難シェルターはこっちです。俺もそこに行きますから、一緒に行きましょう」


女性は驚いていた顔をパァッと明るくさせ、「あ、ありがとうございます!」必要もないのに頭まで下げてきた。

高いヒールで走りにくそうに付いて来る背後の女性を省みながら、頭の片隅で「会社の皆もちゃんと避難できたのだろうか」と考えた。
この怪獣騒ぎにヒーローたちはもう動いているのかどうかとかも。




――ジェノス



分別も、言うこともきかないお目出度い俺の頭は、そんな要らんことまで浮かばせた。



…あーあまったく、スーツだから動きづらい。