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あいつの懺悔


サイタマ先生に「お前、バカだろ」と言われたが俺もそう思います。

俺は、間違いなくバカだ。


共に帰宅していた先生が「あ」と言った後すぐに走り出し、怪人に襲われていた一般人を助けに入った時も、俺は気付いていなかった。
その一般人が救出された後に先生へお礼を言っている時も、同様だ。すぐ隣に立ってその人を視認してからさえも分からなかった己があまりにも愚かだと感じる。


ナマエ、だった。


思い出した後には次から次へとナマエに関しての記憶データが脳内に再生された。
狂サイボーグが引き起こした大惨事から、幸運にもその前に引越して行った為に生きてくれていた大切な友人であるナマエ。
随分と姿が変わっていた。
あんなに背は高かっただろうか。あんなに声は低かっただろうか。あんなに髪は短かっただろうか。
だが俺に生じた変化に比べれば、それは"人間らしい"微々たるものだ。ナマエは今の俺の姿を見て、さぞかし驚いただろうなと考えて自嘲染みた笑いがこみ上げる。




「俺はナマエに酷い仕打ちを与えてしまいました。 あいつはきっと、俺がヒーローになりテレビに映る頻度が増えたことで、"俺"が生きていることを知ったのでしょう。だから多分、探して、会いに来てくれたのだと思います。……『会いたかった』と、言いかけてくれていたな。それを遮ったのは俺ですが……。……随分なことを沢山あいつに言ってしまいました。思い返しても、自分で自分が憎く思います。…復讐に生きる人生だと決意しましたが、やはり、生きて会いに来てくれた友人のことは別だと思ってしまうのは間違っているのでしょうか」


俺の懺悔のような独り言をサイタマ先生は聞いてくれている、んだと思う。さっきから黙られたままだが、気にはならなかった。反応が欲しいわけでもなかったが、先生からの言葉を怖がっているのかも知れない。だが本当に恐ろしいことは、こうして俺はまた一人、友人を永遠に失ってしまったのではないかと言う現実だ。


「…謝るべきなのかも、分かりません。俺は、どうやって"友人"たちと接していたのかを忘れてしまいました。本当に、この四年間ずっと復讐のことしか考えて来なかった代償が、これなのでしょうか。分からない、どうすれば、いや、どうやっても俺は、友人を失っ」

「いや、謝ればいいだろ。普通に」




 いつものように、いつものトーンで、先生は普通に言った。耳穴を掻くポーズで。



「え……」
「何で真っ先に『謝る』の選択肢をお前が放棄したのかが俺には分かんねぇ。謝れば良いじゃねーか。『あの時は思い出すのに手間取ってただけだ。でも今は思い出した。ほんと悪かった』で、加えて『まだ友達でいてくれ』っても言うか? それじゃ駄目なのか」
「…だめ、では……」
「ならそれで決定だろ。善は急げだぞジェノス。喧嘩ってのはな、長引かせば長引くほど面倒くさいんだ。それにそう言うのは謝ったモン勝ちってな。」


喧嘩? 今、俺とナマエとの間に起きた"コレ"は、"完全なる仲違い"ではなくただの喧嘩なのか?
疑問には思うが、だが先生はそうだと言っている。だとすれば、本当にそうなのかもしれない。



「会いに行けばいーじゃねーかめんどくせぇなー」



先生に軽く腕を取られ立ち上がらされた(一応俺の体重は金属量も含め相当な量なのだが)
そのまま部屋の玄関にまで引っ張られ、外に押しやられる。
「会いに行け」って、まさか、


「い、今からですか!?」
「そう言ってるだろ。ついでに夕飯の材料も買って来いな。仲直りが上手く言ったらそのナマエも誘ってもいーぞ。じゃあな」
「あ!」


ガチャン!

ドアが閉められた。ご丁寧に鍵まで掛けられた音がする。



暫く、アパートの前で俺は呆然と突っ立っていたが、先生の言葉を反芻させ、
これが仲違いではなく ただの喧嘩ならば、やはり先生の言うように謝ればもしかするのかも知れない。


よし、ナマエに会いに行こう。そして謝るのだ。





「………マスターコンピュータ起動、人物データベースメモリ展開、該当する人物の検索、絞込み、特定、クリア  該当人物 1名。 続いて生体反応と熱探知サーチに移行。索敵範囲拡大。メモリ照合完了。」




――見つけた。