昔住んでいた街が滅んだらしい。朝刊で配っていた新聞で知った。
特に街自体に愛着とかがあった訳じゃない。親父の仕事の都合で転勤族だったから一つの町に固執を残すなんてことは無かった。どんな場所だろうと必ず一年、もしくは二年以内に引っ越すことになるんだから当たり前なんだ。
けどその滅んだ街には、転校続きで友人のいなかった俺に出来た唯一の友人がいた。
目に眩しい金髪姿が脳裏に浮かぶ。新しい街に転校する前日に、泣きながら渡してくれた手紙は今も大事に日記帳に挟んである。水滴で滲んだ『また会おう』の文字と、友人の姿とが重なった。
気が付けば俺は新聞配達用の自転車と配達用の新聞を道端へそのままに、走り出していた。
信じたくなかった。あの街が、住民一人残さないまま滅んだなんて、 そんなの信じたくない。あいつが死んでしまったなんて、そんなの、
「…っ、ハァッ、ニュ、ス、はぁ、はぁ…」
家のリビングに座っていた母さんが目を真ん丸くさせて「ナマエ、もう配達終わったの…?」と訊いて来たが答えている余裕がない。今まで母さんが目を向けていたモノに、俺の眼も吸い寄せられてしまう。
マイクを持ったリポーターが、ヘリコプターに乗って どこかの 街の上空を映し出していた。
『ご覧ください!この惨状はたった一人の狂サイボーグによって引き起こされた……』
カメラがリポーターから眼下の街に向けられる。
頭からつま先まで、冷や汗が流れ落ちるような感覚。
やけに見覚えのある街並みと、聞き違えようのない街の名前。ぺしゃんこになって崩れているあれは、もしかしなくても俺が通っていた中学の校舎ではないか?
「…っ!」
ジェノス
どうして、だとか、何で、なんて考えない。リポーターが話している。狂暴化したサイボーグとか、怪人にならよくいそうなタイプの奴だ。きっと理由なんて無かったんだろう。あの街を ジェノスがいる街を破壊した理由なんて、なんにも。例えあったとしたって、俺には与り知らぬことで、
「…この街、以前住んでたところよねぇ? 危なかったわぁ、引越ししてて良かったわね」
この時ほど自分の母さんを怒鳴りつけたかったことはない。何言ってんだ!って、叫んでやりたかった。
危なかったねって、自分が無事なら他はどうだっていいのか。いや、俺だって他の街が破壊されていたなら母さんと同じことを言ったかもしれない。もしかしたら大した反応もせず、「あっそ」だけで済ませていたはずだ。
でも違う。あそこにはジェノスと、ジェノスの親御さん達がいた。
いてもたってもいられなくて、俺は自分の部屋に駆け込んで、机の棚に置いていた日記帳を取り出す。最初のページを開いて、挟んでいた手紙を手に持つ。ジェノスらしい、整然とした手書き文字。『また会おう』って、書いてあんのに。もうお前は俺に二度と会えなくなってしまったんだぞ。
「…っ、ジェノス…!」
俺もお前に、もう一度会いたかったのに