一撃 | ナノ
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どうにもままならぬ


俺は知っている。


今、特選新鮮野菜コーナーでどちらの玉葱の袋詰めがお買い得かどうかを悩んでいる禿頭(とくとう)の男性が、実は物凄く物凄くものすごーく強いヒーローであることを。



"むなげや"の一店員である俺がお客様の一人を凝視しているなんてとても失礼なことをやっているのは理解している。

だがあの人は、先週、俺を怪獣から救ってくれた命の恩人なんだ。

お礼がしたい。どうしてもしたい。だけどあの日以来、どうも此処以外で出くわせずにいて困っていた。あの人がスーパーにいる以上、俺は店員であり、彼はお客様だ。勤務中みだりに会話をしてはならないし、持ち場を離れてもいけない。
伝えたいことは既に考え済みだ。まず助けてくれてありがとう、そしていつもこのむなげやを利用してくださってありがとうございます。いやもっと気の利いたこと言えないのかよって自分でも自分が嫌になるぐらい俺には国語能力と言うものが無い。

俺の葛藤と衝動が一つの心で鬩ぎ合う。冷房のきいた店内で変に汗を掻き始めている俺のことを母親に手を引かれて歩く少年がおかしなものを見るような目で見ていた。





(……うーん……せめて俺が早上がりの日に来てくれたらまだ良いんだが、そう上手くいかないんだよな……前までは毎日来店してくれてたのに最近じゃ数日に一回程度しか来ないし……たまに一緒に買い物しにくる金髪が関係してんのか?確かによく見かけるようになったよなあの人も)
「いらっしゃいませー」
(それにしてもまさかあの人があんなに強いヒーローだったなんて……見かけによらんもんだよなぁ、OPPAIとかって変な服着てることにすら何か感心してきた……)




「………あのー」



「 はい!お呼びでしょう……かっ!?」

「こっちと、こっちの白菜って、どっちがすき焼きに合うか分かる?」

「…………そ、っちの白菜の方が、芯まで甘くて、汁をよく吸収し染み込みます、よ……」

「おーそっか。ありがとな」

「…………おか、いあげ、ありが  ます」




――ああもう、また駄目だった!