俺の"白衣の天使"は今日も機嫌悪そうにプリプリ怒っていた。
カルテを持つ手が若干震えていて、天使の怒りを如実に表している。
(また怒らせちまったなぁ)
形ばかりの反省をするべく「ごめ」まで言ったところで「あなたって人は!」と怒声が飛んで来た。思わず体が飛び上がる。
「私の寿命をどれだけ縮めれば気が済むんですか!」
「ひぃっ、すまな……て、え? 寿命?」
あれ。言われるだろうと思っていた言葉が違う。
てっきり「いつもいつも私の仕事を増やさないでください!」って言われるものかと思ってたのに。
少しの掠り傷でもヒーロー協会医務室・担当ナマエに治してもらいに来てるってのは自覚している。分かっててやっているからな。でも口では「こんな程度の怪我でここに来ないでください」って言うが、何だかんだで綺麗に絆創膏を貼ってくれる天使が好きだ。だけどやっぱりナマエからすると俺みたいなのは「余計な仕事を増やす奴」と思われてるんだろうなってことも自覚してて、今回もまた、そんな風にどやされるんだろうなと、
「あ…あの…ナマエ、ちゃん?」
「…ここに運ばれてきた時点であなたの全部の骨が折れてたんですよ!全部!全部です!」
「は、はい!」
「よくもまあそんな身体で生きてましたね!」
「まあな、俺ってば強いから…」
「黙らっしゃい!」
「はい!」
やべぇ、これは完全にキレてる。
深海王に負けて、満身創痍で医務室に運ばれた間の意識は無かったから、俺は自分の容態をよく知らない。
目が覚めて医務室の天井が見えた時には体のあらゆるところが動かないように固定されていて、それから、
ナマエが今みたいなムッスリ顔で覗き込んできていたっけ。
「…良かったです、生きててくださって」
「……ナマエちゃ、」
「あなたが災害レベル鬼以上の怪物と戦って負けたと聞いた時には肝が冷えましたし、寿命が五年くらい縮まりました」
「五年も…」
「そうです。あなたの生死は、私の寿命を五年左右させるのに相当するんです。そこのところ、よく自覚して日々健康にお過ごしくださいね!以上!」
「お、おう…」
言いたいことは言ってやった。
そういう感じで、やけにすっきりした顔をして天使はカルテを持って颯爽と病室を出て行く。有能な子だから、他にも受け持っている患者や運び込まれた怪我人の様子を見に行くんだろう。
――惜しいことしたなぁ
身体が拘束されてさえいなかったらいつもみたいに、「まだここにいてくれよ」って言って引き止められるのに。
優しいのに優しくないフリをするナマエを抱きしめられたのに。
泣くなよって言って、安心させてあげられるのに。