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マルコに上から見られていることには、いつも気が付いていた。
日々の点検から戦闘後の修理まで、働きっぷりを見守られているようでむず痒い。マルコは気にしていないのだろうが。戦いの後だと言うのに、他の連中のように医務室に行かずそのままの体でいるのはさすがと言うべきか。あの男が何を思ってそのような行動を取るのかは分からないが、今日もまた頭上から降り注がれるマルコの視線から、俺は何でもない風を装っている。




「ナマエ〜損傷具合はどうなんだよい」


先の戦いで破損したモビーディック修復作業の事前確認をしていた。
側面には、大きな砲弾を撃ち込まれた痕がまざまざと残っている。前方二方向からの攻撃だと思えば、損傷軽微で済んだと思えばいい。しかし船に取り付けてある設備だけでは難しい。

心配げなマルコに様子を伝えるべく、重い口を開いた。


「…………酷い」


自分でも、随分と暗い響きになってしまった。
すぐに後悔する。
盗み見たマルコの表情には、すっかり"憂い"が見えた。モビーディックを、白ひげ海賊団を、守ることに人一倍の熱意があるマルコにはあまり掛けたくない心配だった。いや、と訂正を入れようとして、言葉が続かなかった。口下手な人間と言うのは、他人が思っているよりも平凡なところで喉にことばが詰まる。己を呪う瞬間だ。



「…………マルコ」

「 ――ん? 何だよい」

「……鉄板を投げてくれ」


急にどれのことだとマルコはうろたえた。慌てて、背後にあった修理道具の山に走っている。
これか!と言った声のあとに、構えていたところへと鉄板が落ちてくる。間違いなくソレだ。きっとマルコなら鉄板と言うだけで察するだろうと思ったが正解だ。

それに対して無言で頭を下げただけの俺のことを、マルコは失礼な奴だと思っているだろうか。 だがそれは、俺自身が考えても栓の無いこと。




「……すまねぇなナマエ」

「……?」


暫く静かにしていたマルコが口にした謝罪の言葉 何となく、それの意図が掴めてしまう


「おれがもうちっと動けたら、モビーにも無理はさせなかったんだがねい」

――仕事増やしたみたいで、すまねえよい



ほら、やっぱりそうだ。
半ば予想していた通りのマルコに、俺の"人を見る目"も侮れたもんじゃない。

マルコは顔を船縁に預け、水平線へとぼんやり視線を送っている。
奴の金髪がふわりと風に揺られ、俺の作業着にも冷たい空気が通っていく。
傷跡さえも残らない身体にも、船体を掻き分けて吹く海風は、身体に毒なのに違いはないのに。
それだと言うのにお前は、いつもそうやって、そんな所に立って、

俺の意識を散漫にさせてしまうのだから、



「………―――マルコ」


本当にお前は――


「……ん?」


「気に、病むな」


――手のかかる奴、 いや、言葉のかかる奴だよ



「お前は気にせず、お前のやれる範囲でやれる事をやればいい」


ただの人間なんかに、能力者である身を心配されたくはないかも知れないが


「だがあんまりに頑張って、オレから仕事を失くさないでくれ。…程ほどにな」


付け加えるように労いの言葉を足して、そこで一旦区切りをつけてマルコの反応を見る。 俺本人としては、ここ十年くらいの中で一番がんばった。長文の台詞の際の息継ぎが上手く出来なかったが、伝えたかったことは大方伝えられたはず。それなのに


「……ナマエが、二言以上喋ってるよい……」


……思い切り嘆息したい気分だ。あのな、と言って弁解したいがそれはもう出来ない。つかれた。
辛うじて残っていた気力で「…俺だって話すときは話す」と伝える。手にしていた工具たちが、『早く作業に戻れ』と責めているみたいに重く感じられた。失礼なことを言う奴のことはもう知らん。手早く応急処置を済ませ、オヤジに最寄のドッグへ寄ってもらうように頼まなければ。



修復箇所に目をやった俺には、もうマルコの姿は映らない。
だから俺は知らなかった。 あいつが、とても真っ赤に頬を染めていたことなんか。