海軍が海賊の討伐を終え、沈静化しつつあるシャボンディ諸島の片隅には、 負傷した父や姉や兄には目もくれずに涙で顔を濡らし、目を腫らせ、泣きじゃくるナマエの姿があった。 お気に入りだった人形を放り捨て、わあああん、うわあああんと大きな声を上げたまま一向に泣き止む気配のない少女に護衛達はオロオロと立ち竦んでいるばかり。 ――嫌よ、嫌と 駄々をこねることは簡単だ。 そうすれば周りの者達はみんな、「どうかされましたかお嬢様」と駆け寄り、 ナマエの望みのものを与え、ナマエの願いを叶えようとするのが当たり前で、 兄姉たちの中でも比較的正常な思考の持ち主であったナマエでさえも、従者とは"そうある者たちの集まり"なのだと思っていた。 「わたしのジャンバールを とりかえしに行って!」 しかし皆一様にして口を揃える。 「その願いは叶えられない」のだと。 「ハートの海賊団は騒ぎに乗じて消息を完全に立ちました」 「我々だけでは追いかけられません。海軍の協力を得てではないと…」 「それにナマエ様 本来なら、天竜人である貴女様が気にかけるような存在ではないのですよ。あんな海賊なんて」 ――海賊なんて このお付きが何を言っているのか、理由が分からないし意味も不明だった。 けれど、ナマエはまだ幼いが一通りの人間を見る目と分別はついている。 ジャンバールはぜったいにナマエのことが好きでいてくれていた。 それなのに、ナマエのもとを離れて行っちゃったのはおかしい。 きっと、あの時あの場所にいた悪い海賊が、ジャンバールを連れ去って行っちゃったんだ。 あのときのジャンバールに、ジャンバールの意思は介入してはいなかった。 なら、救ってあげなくちゃ。 ジャンバールを 取り返さなくちゃ 「勘違いしないで」 幼い少女の柔らかだった瞳に、強く、暗い力が込められる。 急に顔つきを変えた少女に、護衛たちは不安を植え付けられ後ずさった。 「無知」であるが故に、他の兄弟達よりもこの少女のことを軽視していた周りの者達は、この時改めて思い知らされることになる。 幼いこの少女もまた、天竜人の一族であることを。 「あなた達の意見なんて聞いてないの。『すぐにジャンバールをわたしの元に連れて来なさい』 わたしの言っているこれはお願いじゃない、"命令"よ。下々民のあなた達はただ言うことを聞けばいいんだから!」 「し、しかしナマエ様 まだシャルリア宮様たちが目をお覚ましに…」 「お兄さまたちのことなんてどうでもいいの! ジャンバール!ジャンバールに会わせて! いや!どうしてジャンバールいなくなっちゃったの?どうしてナマエを独りにさせたの?痛い、いたい、痛いいたいいたい痛いむねが痛いよぉ!!」 「ひぃっ!?」 ナマエが、懐から拳銃を取り出した。 ちゃんとした使い道なんて教えられぬまま、姉に渡された本物の銃 それをナマエは、一人の護衛に向けて突きつける。 「海軍でも政府でも誰でもいいから、ジャンバールを探させて。 早く!」 癇癪を起こすナマエを心配して、未だ動き出さない愚図な護衛たちにイライラが募る。 ああ、こんな時ジャンバールなら! 彼ならすぐにナマエのしたい事を叶えてくれるのに 「ジャンバール……会いたいよぉ……」 どうしてそう願うだけがいけないのか。 ナマエには、理解できない |