ナマエ船長はああ見えてと言いますか、見たとおり情熱的な性格の持ち主なので。 おれ達クルーのことを大切にしてくれますが、それ以上に惚れた腫れた相手には天井知らずの想いを抱いてアタックをしかけると言うのが常なのです。 決して惚れやすい人ではないのですが、一度、船長の中のハートに触れるともう一直線と言う感じでした。 ――ロロノア・ゾロ 海賊なら、よほどのバカでない限りは頭に情報として入っている名前の男に、よもや拙宅の船長が骨抜きになる未来なんて想像も出来なかった。度々ナマエ船長が麦わらの海賊船にお邪魔しに行く際に遠目からその姿を見ただけでも物凄い威圧感の持ち主だ。クルーはみんな口を揃えて「あんな男は嫌だ」と言うような男で。 船長、早く目を覚まして、冒険の続きに出かけましょうや。 海賊コートの裾を引っ張っても、残念ながら船長は、眼をハートにさせてロロノア・ゾロを見ている。 「グッドアフタヌーン・ゾロ君!!」 今日もナマエ船長のマシンガン告白には唾さえも飲み込める余地はない。 お前らまた来たのか、と言いたげに船の方を窺ってくるロロノアの厳しい視線に船縁に隠れつつも受け止めてみる。面目ない、と言うより怖いよロロノア・ゾロ あの眼力、やっぱり麦わらの一味の連中はハンパじゃないぞ。 「だーからな、いつも言ってやってんだろ?ナマエ。 ゾロの気を惹きたかったら魚じゃなくて酒なんだよ。肴より酒、だって!」 「…むぅ、しかしだな。今俺は航海中の身 おいそれと貴重な酒を手に入れる手段が…」 狙撃手・ウソップや、船長であるモンキー・D・ルフィと肩を並べながら話し合っている声が、風伝いにぼく達のところにまで届いてくる。 勿論それは、おれ達よりも、より近くにいるロロノア・ゾロにもだろう。 船長はああ言っているが、本当はいつもロロノア用の酒を用意していることをクルー達は知っている。 "偉大なる航路"、"凪の帯"布巾に浮かんでいる小さな島で職人たちの手によって造られている特上の地酒を。 まず間違いなく、酒豪の男たちはその名前を聞くだけでそれがどれ程珍しく美味な酒であるかは気付く。手に入れるのは至難で、流通では出回っておらず直接足を運んで職人たちから直に受け取るしか入手の方法はない。 折角苦労して手に入れた最高の土産物 しかし、ナマエ船長はいつもそれを自分の船室の机に置いてから、ロロノアに会いに行くんだ。 「物で、彼の気を惹きたくないんだ」と言って。 船長自らのみを以ってロロノア・ゾロに惹かれて貰わないと嬉しくないからと笑って。 全くクルー泣かせなお人である。あんな、お宝を手に入れた時よりも幸せそうな笑顔でロロノアのことを見ているような人に、素直に忠誠を誓っているおれ達もおれ達だよな、談笑の話題には事欠かない。全くだ、と言って船長をからかっているのは、まあ楽しい時間なのだ。 「…なあ、もし万が一、や 億が一さ ロロノアがおれ等の海賊船に乗ってきたらどうする?」 「へっ、ありえねーだろそれ」 「まあ、そしたらおれ等の弟分になるだろうな」 「ナマエ船長がロロノアをおれ達より下のトコに置いとくわけないだろ。どうせ隣に置いてんだぜ、四六時中」 「軽く想像出来るなーそれ……」 「お前、本当にそれ軽く想像出来んのか?ロロノアが麦わら辞めるなんてありえっこねーだろ」 「やっぱ? じゃあ何だ、船長はこのまま通い詰めってことか」 「いっそロロノアが船長をこっ酷く振ってくれりゃあ良いのにな」 「それだ」 いくら自由気ままに偉大なる航路を渡っているおれ達海賊団だとしても、これまた気ままに船を動かしている麦わら海賊団に追いつくのも骨が折れることだ。 一縷の望みにかけて、ロロノア・ゾロがこっ酷く――それでいてあまり船長がショックを受けないような感じで――振ってくれやしないもんか、とクルー一同、船縁から僅かに顔を覗かせ、麦わら船の甲板上で刀の手入れをしているロロノアと、そのロロノアに嬉々として何事かを話しかけている船長の姿を見る。 「………や、あれはやっぱ無理だな」 誰かが呟いた。 確かに あのロロノアの様相では、ナマエ船長をこっ酷く振るなんて確率は、低そうだ。 |