ヒナが吹かせた煙草の煙にナマエは非難の声を上げる。 「煙たいよー、ヒナ」 ――もっと他にも、ヒナに向けて訴えなくてはならない事があるでしょうに、目下ナマエが伝えたいことはこの一帯に立ち上る煙の臭いについてのようだ。 悩ましく眉根を下げて私を見るナマエの顔も好きだけれど、心配そうに私のことを見てくるその顔も好きよ、ナマエ 「…フルボディさんとジャンゴさんはまだ?」 「まだのようね」 「うぅ…そろそろ鼻と足が曲がりそうだよヒナぁ…」 なら地べたになんて座らずに、私の隣に座ればいいのにとヒナは思う。能力によって手足を拘束させられている身で、地面の冷たさは酷でしょう?ただの置物と言う扱いなんてしていないから、遠慮なんてすることないのに。 それでも、ヒナはナマエに感謝している。 拒絶されない、と言うことはヒナにとって何よりもの奇跡に近い。 重たすぎる愛情を ナマエに、友人に向けて抱いてしまっていることは重々承知している。昔から束縛癖の強い性格をしていたが、悪魔の実の能力を得たことによってヒナのそれは更に加速していた。 「お前の愛情とやらが相手にとって迷惑にならなきゃいいがな」とは同僚のスモーカーの言い分で、その意味をヒナはよく理解していない。 ――誰かから愛されることが、相手の迷惑に繋がることなんてあるのかしら 傍らに座り込んでいるナマエの小さな頭、頭頂部をヒナはじっと見つめる。ナマエの顔が見えにくくなるのが嫌だから、いつも付けているサングラスは外していた。クリアな視界に入って来るナマエの顔が、とても愛おしく映る。煙草の臭いにも、手足を縛る檻の冷たさにも、自分が置かれている不遇な境遇にも、慣れてしまったようでジャンゴとフルボディが早く帰ってこないかと建物の入り口をぼんやりと見つめていた。 「…ジャンゴさんとフルボディさん、そんな毎日ヒナにプレゼントをしてくるんだ?」 笑いながら、あくまでも"軽い雑談"として話を振ったナマエに、ヒナはそうねと答える。 「要らない、って言ってるのにずっとプレゼントを贈って来られるの」 "悪意"はないが、"他意"が込められているヒナからの返答に対し、ナマエは「そ、そう…」とだけ返す。やはり真意は汲み取れていないらしい。 元々、ヒナは"与える側"だった。 強い束縛を好み、相手が自分に執着するよりも自分が相手に執心する方が性に合っている。 ヒナの部下や、ファンだと言う男は皆、「ヒナさんはクールな人だから男に対して貢いだりとかしないんだろうな」と噂しているが、半分ハズレで半分正解だ。 "男"には、貢がない 「ねぇナマエ そろそろお昼ごはん食べに行きましょう ヒナ、空腹」 「あーそうだね。私も減ったかも。…と言うよりペコペコかな」 「! 何故それを早く言わないの」 「え…だってヒナがしたいようにさせてたから一応主張するのはやめといたんだけど」 「…ばかナマエ ヒナ、憤慨」 「どうしてよっ」 ――昨日と同じように、どこからか摘んできたらしい花束を抱えたジャンゴとフルボディ二人の姿が遠くに見えた。 しかしヒナはそれらの存在を完全に無視した上でナマエの拘束を解き、部下の一人にすぐに昼食の準備をするよう命令する。 「ナマエ、貴女はなにが食べたい?」と意見を伺うのを忘れずに。 |