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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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潮干狩り


転校当初は不満も文句もタラタラ垂れていたけど、二年目になるとそれも慣れて…いや割り切れた。
『レッド寮の食事は極めて貧相』
そんな文字通り眩暈を起こすような現実にも、レッド寮生は立ち向かわねばならない。



「……海だ」
食卓に出された揚げ豆腐と納豆、薄い味噌汁に大学芋を食べ終えて黙っていた十代がそう呟いた。
隣に座っていた俺は勿論のこと、周りにいた翔や剣山、レッド寮生たちも十代に注目している。
全員の代表と言うことで、俺が十代の真意を尋ねることにした。


「…海がどうした?」
「皆、釣竿とスコップを持つんだ!」
「いや待て十代 何する気で…」

「出ないおかずは作るのみだ! 釣ろう!魚!掘ろう!貝!」


韻を踏んで高らかに宣言した十代に周りが同調する。
「うおおおお!!」
「そうだ!それしかない!」
俺もようやく合点が行って、「それいいなぁ」と同意すれば一際明るい声の十代が「だろ!」と得意顔。


「でもおれ釣りとかしたことないや」
「何とかなるって! こんだけ大人数でやるんだ、それなりに数は期待できるんじゃないか? ほらえっと…こう言うのなんてんだっけ」
「"下手な豆鉄砲数撃ちゃ当たる"?」
「そう、それ!」


それってどうなの。とは思ってもみんなすっかりやる気になっている。翔や剣山なんかは早速「どっちが多く魚釣れるか勝負!」なんてことになっているし、サンダーも興味のないフリして「一番良い竿を渡せ!あと軍手だ!」なんて言っている。汚れを気にしてるのかと思えば、どうやら潮干狩りにも精を出すつもりなようだ。
 さて、おれはどうしようかと考えている間に「ほら小波も行くぜ!」と十代に腕を取られていた。基本的に十代の取りたい行動におれの意思は関与できない。十代のやることだから仕方ないことだ。









そして。海岸へと意気揚々やって来た初挑戦組みは、地獄を見ることになる。



「糸がァ!」
「色んなモノが絡まった!」
「流された!」
「餌ぶちまけた!」
「波に攫われるゥウ!」
「岩に引っ掛けた!」
「千切れた!」
「明らか毒持ちの奴釣れた!」
「ウワァアァアア!!」



釣り班は阿鼻叫喚だ。最後の生徒に関してはリアルに自分が流されていた。
万全を期してサンダー率いる貝掘り班になってて良かった。経験もあってか一人調子良く魚を釣り上げて行く十代は「見ろよ小波〜!大物!」と見せに来てくれる。「凄いな十代!」と褒めればやる気が上がるらしく、更なる大物を釣ってくるからな!と頼もしい返事が返ってくる。こちらも負けてはいられない。ヤドカリに慄いているサンダーを尻目におれは手に持ったスコップで砂浜を穿り返す。遠くで翔の「わぁー!」と言う声が聞こえたような気がしたけど大丈夫だろうか。



「成果の方はどうだ小波」
「ヤドカリにビビッてたサンダーよりは獲れてるよ」
「嫌味を言う暇があるならもっと獲れ!今日の晩飯は意地でもボンゴレパスタにするぞ!!」
「え、そんな目標あったわけ? と言うかボンゴレ部分はともかく、パスタのとこはどうするつもりなんだよ!」
「ワカメがあるだろうが!」
「まさかそれでパスタに見立てる気か!?」


どう考えてもワカメじゃパスタ代わりにはなれない。
パスタを新規に調達するよりもサンダーがボンゴレパスタを諦めてくれた方が早いと言い募る。そんな侘しい料理、おれは嫌だ!


「小波と万丈目はなに盛り上がってんだ?」
「あぁ聞いてくれ十代、サンダーがワカメ食べるとかって…ってお前は何釣り上げてんだよ!」
「や、分かんね。これ食えるのかなーって訊こうと思ったんだけど…」
「そんなリュウグウノツカイみたいな魚食えないって!リリースしろ!」
「ちぇー結構釣り上げんの大変だったのによー」


その魚を加点しなくても十代のバケツには既に充分すぎる量の魚が入っている。5人分の焼き魚はかたいかもしれない。


「十代は腹いっぱいになれそうだな…」
「ん? 半分はお前に分けてやるぞ、小波」
「マジで!?」
「おう。最初からそのつもりだったしな!」
「じゅ、じゅうだいぃい!」


すごい。十代が本当のヒーローみたいに見える。一年前の十代なら食い意地が優先して分けてはくれなかったかと思うとその成長ぶりに我ごとのように嬉しい。
勢い余って抱きついたおれを受け止めながら、十代は照れた表情で「へへへ、そんな喜ぶなよ〜」と笑った。


「小波!キサマ一人美味しい思いをするのは許さんぞ!さっさと手伝え!」
「分かったよサンダ〜」
「ええい、語尾を延ばすな!!」













「はぁあ…散々な目に遭ったっす…」
「それはこっちの台詞だドン…」
「助けてくれてありがとね剣山くん…」
「別にいいザウルスよー…」
ずぶ濡れ、へとへとになりながら、どうにか翔と剣山は砂浜に上がって来られた。水中に滑り落ちてしまった翔を他の皆と助けているのに随分時間を食ってしまい、他の皆の様子は様変わりしている。

ふと視線を上げた先に、砂浜になぜかぼうっと立っている十代の姿を見つける。剣山が威勢よく声をかけた。

「アニキ! どうして突っ立ってるドン?」
「お…おう、二人か」
「何かあったっすか?」
「いや、別に!なんもねぇよ!」

そう言った十代の視線の先に小波がいたことが関係するのかは、翔と剣山には分からなかった。