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決闘マシーン(DM)


この数日間、胃に入れたものと言えばインスタントのコーヒーだけだろうか。
固形物を口に入れた覚えがない。…あぁ、ボールペンは食べたような気がする。三日目の断食のせいでプラスチックが春雨に見えたんだった。技術開発研究室からは碌に外に出ていないし、食糧はあるが手を外す暇もない。


今、海馬コーポレーション技術開発部は、先日の海馬社長とデュエルを行った決闘マシーンの復旧に全力を注いでいる。
世界水準でも高性能なコンピュータを搭載したハイテクデュエルマシーンを 手に入れた神のカードの力で完膚なきまでに粉砕してしまわれた海馬社長を恨みがましく出来るわけもなく、技術者総出で、――徹夜だ。


バトルシップで行われているバトルシティ決勝トーナメントの様子は会社のモニターで確認が取れる。海馬社長は次に武藤遊戯と対戦する。

その勝敗如何によっては、復旧も急がねばならないだろう。




「おい、アメリカの支社から決闘ディスクの追加発注の要望が来てるぞ」
「バトルシティ効果でうなぎ登りだな。いいコマーシャルとして数も上がってるし」
「来月開催予定の大会の計画案どこ行ったー!?」
「知るか広報部に問い合わせろ!」
「誰だこの報告書を纏めた奴は!!実際数と規定値の値が合ってないぞ!」


「大丈夫か?」
『ハイナマエ 私ハ75%ノ機能ガ修復済ミデス』
「…あと25%もある……あと5日は寝れないな…」



各部署問わず慌しい海馬コーポレーション内でナマエと決闘マシーンのいるテストルームだけは穏やかなものだ。勿論仕事をしているし、その内容は何も暇なものではない。
復旧のみならず、オベリスクの巨神兵の攻撃により大破したコンピュータの見た目は元より、内臓していた人工知能の見直しも必要である。
海馬社長は一度打ち負かした決闘マシーンとはもうテストデュエルをなされない。
更なるプレイングやタクティクスをコンピュータに仕込んだ上で『新しい決闘マシーン』にしなければ、お咎めは免れないだろう。


考えるだけで辟易しそうなことだ。ハァと溜息を吐いていると、背後から同僚が肩を叩いてきた。



「ナマエ お前決闘者たちのデュエルデータどこまで纏めた?」
「ヨーロッパ大会と南米地域のは2日前に出しといただろ?」
「なら追加だ。先週行われたイギリス大会の上位二十名のデッキレシピとデュエル内容を全部データ化しろって室長が」
「殺す気か」
「当たり前だろ。死ぬなよ。お前のその血とコーヒーの成果が、全部"こいつ"に行くんだぜ」


天井、壁からアームとコードによって繋がれた決闘マシーンを手で叩いて笑う。
それは分かっている。全決闘者たちをデータ化するのは全てこの決闘マシーンにインプットさせる為にやっていることだ。


「喜んでやらせて頂きますともー」
「俺もこれからアジアでやった3つの大会のまとめだ」



その時、巨大スクリーンにバトルシティ決勝トーナメントの実況が流れてくる。

ソリッドビジョンで作り出されたコロシアムの中央に我らが海馬社長が立つ。対戦者であり、ライバルでもある武藤遊戯を待っている。


「ナマエの幼馴染もああして頑張られてることだし、お前もがんばれよ」
「だから、幼馴染つっても二ヶ月だけ同じ施設にいただけなんだって」


いつも弟と仲良くしていた彼が社長を勤める会社に、まさか自分が就職することになるとは夢にも思っていなかったが。





一定時間のスリープ状態に入っていた決闘マシーンがいきなり音声メッセージを発した。


『≪オベリスクの巨神兵≫ノ攻略方法ヲ考案イタシマシタ。 ≪地砕き≫ノ効果デ≫
「あーお前はもう何も計算しないで良いから余計な熱かけないように大人しくしててくれ」
『ハイ…』