まん丸お月様が時折雲間に隠れたりしながら、真っ暗な夜の街を照らす大きな光源として活躍している中、
およそ世間様には顔向け出来ないことを生業として生きている俺は、そんなお月様が嫌いだった。
感傷的になったり、何かトラウマがあるわけでもないが、あの黄金色の球体は"良からぬこと"をする俺を蔑んでいるような気がしている。
そんな俺の思っていること、考えていることなんかに毛程の興味もないであろう隣に立つ魔獣人は、月夜だろうが朝方だろうがお構いなしにと自慢の斧で次々にターゲットたちの首と胴体を切断して行った。
長年の仕事の影響で俺の鼻はすっかりバカになってしまい、彼のやりすぎを咎めるためには目を使わなくてはならない。
大量の人間の血を吸った斧を 薄い緑色した目で見つめる表情には快楽がある。
こうなってしまっては、――ブラッドヴォルスは俺の話を聞かない。
奴の精神がこちらに戻って来るまで、俺はただ座って眺めているしかないのだ。
もうとっくの昔に見慣れてしまった筈なのに、ブラッドヴォルスの顔は何と言うかいつまで見ていても飽きない。
数多くのモンスターや人を見てきたし、パートナーにしてきたけど、ブラッドヴォルスほど俺のこの仕事に対して乗り気に力を貸してくれるモンスターは……いや訂正しよう。
コイツは自分が好きなことしかやっていない。力を俺に貸してるなんて、露ほども思ってないんだろうな。
……それにしてもこの魔獣人――チョー極悪な人相してるよなぁ。
≪……オイご主人様 今ヒデェこと考えてやがったな?≫
「 うわあっ! お前こそ急にこっち帰って来んなよ!ビックリするだろうが!」
≪そんな言い草はねぇんじゃねェのかご主人様よ あのハゲ坊主が指定した奴らはちゃぁんと殺っただろうが。ここはオレを褒めるべきトコだぜ≫
「その後に無関係の民間人も5人くらい殺しただろ……あれは褒められない」
あと、ハゲ坊主じゃなくてクライアントだ。報酬を貰うまでは大切な客人なんだから、不躾にそんな名前で呼ぶんじゃないぞと一応釘を刺しておく。だが当の魔獣人はそんな話には興味ないらしい。
血糊がべっとりとこびり付いた斧を構えて、≪なぁご主人様 あと3人ぐらい誰か殺しても良いか≫なんて言ってくる。流石にこれ以上、事を起こせば誰に気付かれるやも知れない。
ここはご主人様らしく振舞っておいた方が良さそうだ
「もう駄目だ。今日はこれでお前の役目はお仕舞いだからな」
≪なにィ!?もう少しぐらいイイじゃねぇか!!≫
「ダメったらダメだ。 ほらもうカードに戻れ」
≪あっ、クソ!テメェ――ナマエ!!≫
魔獣人の巨躯は、一枚の薄っぺらいカードの中へと帰っていった。
絵柄に描かれているブラッドヴォルスの顔が、心なしか憎悪に歪んでいるように見える。去り際の彼の態度に身震いはするが、これでも俺はコイツのご主人様だ。
胡坐を掻いていられる内に、殺し屋稼業の頼りになるパートナーとしていてもらおう。
「……俺、いつかブラッドヴォルスに殺されそう」
願わくばこの心配が、どうか杞憂になるように