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喜び


/あんまり喋らないタイプの小波君設定
/TF2十代ED後




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「あはは! 小波は俺のパートナーなんだぜ!」

本心でもあったが、勢いもあった。十代との決闘で勝利を収めた小波のことをクラスメートたちが我先にと「自分ともデュエルしてくれ!」と求める姿を見ながら、思わず口から出た宣言だ。
小波は遊城十代のパートナーである。
そんな認識は、ここ1年で大きく定着しつつあった。「十代のパートナーと言えば小波」「小波が選ぶパートナーと言えば十代」そのようなことだから、シングル同士で戦った後のこの決闘の後に便乗しようとする者達が出て来る。

生徒たちの熱気に押されて狼狽えていた小波の手を取って教室から飛び出す。突然の力によろめきながらも、小波は脱げかかったトレードマークの赤い帽子を押さえながらその後を追った。追わざるを得ないのだが。


追跡から逃れ、海を見渡す十代のお気に入りの隠れ場所――周知の事実――に逃げ込んでくると、木陰に隠れるようにして十代はドカッと腰を落とした。

「はー!走った、走った」

ワアワアとあちこちを走り回ったせいか久しぶりに息が切れるほど走った。それは小波も同じだったらしく、ぜいぜいと息を整えながらも十代の言葉にコクンと頷き十代の隣に腰かける。汗を掻いたのだろう、帽子を脱いで頭を一、二度と振って付着していた汗を飛ばす。普段は帽子と長めの前髪の下に隠されている小波の瞳が惜しげもなく露になるのをぼうっと見ながら、十代はフッと笑った。

「さっきのデュエル、楽しかったな」

再確認するように訊ねれば、小波はニコッと口元に笑みを浮かべて頷いてくれた。もう帽子は定位置に戻っている。

「小波が転校してきた時に言ってた言葉、覚えてるか?」
「?」
「”タッグデュエルが好きだ。シングルはそんなに強くはない”って言ってたんだよ。忘れたのか?」

十代の言葉で思い出したのだろう。ああ、と言うように口を開けて、言った内容に少々思うところがあるのか恥ずかしそうに顔を俯かせてしまった。別に責めてるわけじゃないんだぜ、とフォローするが、十代にそんなつもりがないことは小波も充分承知している。一番相性のいいベストパートナーだから。

「小波にシングルルールで負けたのって今日が初めてだよな」

そう。小波は今まで十代とシングルで勝ったことはなかった。
新しいパックを買って、新しいカードを引いて、新しいデッキを構築したときの試運転に十代とデュエルすることは稀にあった。その時も小波は十代に負け越している。強い十代が相手じゃ、このデッキレシピが強いのか弱いのか判断が出来ない、と小波がことさらに文句を募らせたこともあった。十代に言わせてみれば、小波の考えるデッキはどれも強かったし、楽しかった。それでも自分が勝っていた。

うん、と頷いた小波は何だか嬉しそう…いや、興奮しているようだった。十代とのデュエルをリプレイしてようやく熱気が追い付いてきたのだろう。すぐに教室から連れ出されて走り回されていたせいだ。

「…十代に勝てた」
「おう」
「……」

へへ 声に出して小波が笑う。珍しい。遠慮がちに上をに上がっていく、普段真一文字に引き締められた口角がどこか幼くて、十代は素直に「小波が楽しそうで嬉しい」「かわいいな小波」と言ってしまいそうだ。
いや、言った。また勢いが顔を覗かせたのだ。

「… …」
「… あ」

ギクリと固まった小波の姿を見て思っていたことが口から出たのだと気づいた。「か、かわ…?」前半の言葉は理解できるとして、後半の言葉 それはないだろう、でも十代にもそんな形容詞が考え付くことってあるんだなと小波が遠慮がちに茶化して、訂正の機会を与えてくれている。

言ってしまったことは確かに無意識だったが、自分の意識で考えて出た言葉だ。取り消すつもりはない。
「俺に勝てて嬉しそうにしてる小波は、なんつーか…”イイ”よな」
ダメ押しの言葉を被せれば、小波はウーと唸って「分かった、ありがとう。…そうかな?」とまだ納得は完全には行かないようで首を捻って自問している。そういうところもまた可愛いかもしれないなんて、今度こそ怪訝さが全面に押し出た顔を浮かべられるだろう。だがそんな、十代がまだ見たことない小波の知らない表情を見られるのなら、言ってみる価値はあるのかもしれない。またいつか、言う機会があるといいのだけれど。

「 小波、腹減らねぇ?」

フルフルと首を横に振った小波に、「そう言わずにさ!」と再度その腕を掴んで引っ張り立たせる。

「立つときは立てって言えば、自分で立ち上がるよ…」
「別にいいだろ? なんか走ったら腹減ったからさぁ、騒ぎも収まってるだろうし売店にドローパン買いに行かね?」
「分かった」

新入荷予定のパックも買いたいし…あ、早く行かなきゃ売り切れるかも。
そんなことに気付いた小波は、大変だ早くしよう十代 と、掴まれていた十代の手を逆に自分から引っ張って走り出した。急な勢いによろめきそうになったのは今度は十代の方だ。

「お、おい小波!そんな急がなくても大丈夫だって…」
「新しいデッキ組んだら、また十代にデュエルしてもらいたいんだ」
「え」
「いいよね?」

振り返った小波が、今度こそ口元に大きな笑みを浮かべる。
十代はその笑顔に対し、同じほど大きな喜色満面の笑みで「もちろんだぜ!」と、小波の手を強く握り返すのだった。