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「#幼馴染」のBL小説を読む
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自覚


十代の機嫌が悪い。

理由は分かってる。さっきのブルー生徒相手に行ったタッグデュエルで使用した、俺のデッキのせいだ。


俺は昨日、臨時でエドのタッグパートナーを勤めることになっていた。どうしても、とあのエドが強く頼み込んで来たから俺は勿論了承したし、一緒にいた十代も「1日だけ?なら仕方ないな」なんて笑いながら言っていた。常に十代のパートナーだからか、エドは俺自身よりも十代に許可を得るような素振りすら見せていたけれど。


そしてエドとのタッグデュエルは無事に終わっていた。
エド用に作ったタッグデッキは上手く回ってくれたし、エドのサポートも十二分に出来たと自負している。デュエルが終わった後もエドはいたく喜んでくれたし、「また何かあれば頼むよ小波」と言って握手を交わした。

ここからは俺のミス。
昨日は寮に帰った後、疲れていたからそのまま眠った。朝早くに十代が起こしに来てくれて、急かされてバタバタと部屋を出たのが一時間前。島をあちこち歩きながら昨日のエドの話を十代に聞かせ、最初のデュエルの相手が見つかり成り行きでタッグデュエルに突入。

けど俺がデュエルディスクに挿しっぱなしにしていたのは、エドのために作っていたD・HEROデッキだったわけだ。

手札を見たときはさすがに焦った。
何せ、これまでずーーーっと十代のパートナーをしていて、たまに違う相手とタッグを組む時は普通の汎用デッキを使っている。D・HEROという特殊なデッキを使用するエドのために専用デッキを組んだのであって、普段はあまりしないのだ。
だから、デュエルディスクにセットしてあるデッキは、いつものように十代用HEROデッキだと勘違いしていたんだ。


動揺した俺の様子にすぐに十代が「どうした?」と心配をしてくれたけど、その後に俺が仕方ない、このデッキで戦うしかない、とタカを括って召喚したカードを見て「えっ?」となっていた。

でもデュエル自体は問題はなかった。
いくらサポート用とは言え、D・HEROデッキ自体は強いものだし、十代なんて言わずもがな、自分一人でガンガンデッキを回してHERO達を召喚し勝利を収めた。


けど、デュエルが終わった後の十代の、機嫌がすこぶる悪い。
今も俺の前をスタスタと歩いて行ってしまうし、追いかける為に小走りになってる俺よりも歩く速度が速い。


「じゅ、十代」

待って。止まって。
息切れになりながらもそう伝えると、十代はピタッと足を止めて振り返ってくれた。
その顔はさぞかし不機嫌なものになってるのだろうと思っていたけど、予想を裏切って十代の表情には焦りのようなものが浮かんでいた。


「わ、悪い小波!」
「え?」
「オレが先々歩いちまったからお前、疲れたんだろ!?」
「え?い、いや、そんなに疲れては…」
「そうか…?でも、ゴメンな」
「お、おう…」


あれ?もしかして十代、別に機嫌悪くしてたわけじゃないの? なんて思ってしまう。いつもの十代だ。
堪らなくなって、俺の方から話題を振ることにする。


「…お、怒ってたんじゃないのか?」
「ん?」
「俺が間違えてD・HEROデッキ使ってたから…」
「…ああ、それか」


「いや、べつに?」
十代はあっけらかんとした様子でそう言った。腕を頭の後ろで組み、「勝ったしさ!」なんて笑う。あまりに朗らかすぎる笑みだった。でも、それじゃあ、確かにさっきまで後ろから見ていて感じた機嫌の悪そうなオーラの説明が付かない。あれは絶対に、負のオーラだったんだ。


「…でも、絶対に機嫌悪かったよ十代」
「…」
「やっぱり、何か他に理由あるだろ?」


問いかけた俺を見て、十代はポリポリと頭を掻く。「んー……」と難しい声を上げて、観念したようにハァと溜息を吐いた。


「ワリィ…なんかちょっと、ムカついたりもした」
「ムカつく? 何に?」
「エドに」
「…何で?」
「…昨日、オレの知らないところで、エドと小波はどんなデュエルをしてたんだろうって」


"オレの知らないところで"
この部分を強調するように絞り出した十代の声は、どこか焦ったくて、拗ねているようで、構ってもらいたい子どもが母親に強請るような、そんな感じだった。

こんなことを十代が誰かに言っているところを見るのは初めてだし、俺も言われたのは初めてだった。

なのに、なぜか"違和感がない"と感じたんだ。
十代がこんなことを 俺に 言うのは、何も変なことじゃないって、どうしてだかとても強く。


「…ゴメンな、こんなこと言われたら小波だって困るだ、」
「十代」
「…?」
「いいんだ、十代。本当のこと言ってくれて嬉しいよ。俺の方こそごめんな。次からはデッキもよく確認するようにする」
「小波…」



俺は大概、十代に弱いのだと思う。
同年齢なのにどうしてだか甘やかしてやりたくなるし、多少のわがままなら何だって聞いてやりたい。頼ってくれたら全力で応えるし、助けになれるのならどんな時でも助けになる。
だから、何でも言って欲しい。
きっと俺は、十代にかけられる言葉を 否定したりしない。



「………、…」
「…十代?どうした?」
「! いや、何でもねぇ!」
「?」
「あー…のさ! そろそろ、次のデュエル相手見つけようぜ!授業の時間が来る前にさ!」
「そうだな、行こう」



俺が隣に立つと、十代は俺と歩調を合わせて走り出す。
並び立った十代の背は、前にお互いの背丈の差を気にした時よりも少しだけ高くなっているような気がした。