*IF〜そして幼少十代とも面識があったら〜
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「小波って変だよ」
友人だと思っていたクラスメートにそう言われた。
小波が腕を骨折して病院に入院する、その日の話だ。
小波が通っている学校でもデュエルモンスターズは流行っていて、少ない小遣いでカードパックを購入し、放課後には皆で公園に集まってデュエルをする。そんな何でもない小学生の遊びの風景に、小波も混じっていた。
ただ、他の子ども達よりも、"デュエル"と言うものに"熱心"に取り組んではいたが。
「どうしてそんなムキになんだよ!」
対戦相手だったクラスメートが涙を目に湛えながらそう叫んだ。小波はビックリしてデッキを持ったまま硬直する。
「ム、ムキって?」
ようやくかけられた言葉にも、クラスメートは吠えた。お母さんに買ってもらったんだ、と自慢していた新品のデュエルディスクを放り捨て、デッキの山を崩しながら、小波よりも少しばかり背の大きなそのクラスメートはずかずかと歩み寄り、小波の胸倉をぐっと掴んだ。
「小波ばっか勝ってて、面白くない!」
「ぼ、僕ばっかりって、そんな、」
「だって変だもん!おれ達の誰も小波に勝てないなんてさぁ! なんかズルやってるんだろ!?」
「え…」
衝撃がはしった。ズル? 心外だ、そんなことやってない。しかし喉は圧迫されるだけで、小波が反論を唱えることを良しとはしてくれなかった。尚もクラスメートが言い募る。
「次にデッキから来るカードが分かってるみたいな素振り見せる時だってあるだろお前!」
「そ、れは…」
「おかしいって! 変だろ!」
「もう小波とはデュエルしたくない…」
「おれらが負けるばっかでつまんねぇんだよデュエルが!」
「!!」
そのまま地面に突き倒される。被っていた赤い帽子が反動で頭から離れ、付けていたデュエルディスクの重みが重力に加算され、小波はついた右腕では体重を支えきれず、グギリ、と嫌な音を立てる。
そんな小波の様子に狼狽したが、すぐに何事もなかったように「行こうぜ!」クラスメート達は怒って行ってしまった。デュエルディスクも、デッキも拾わずに。
その後、小波は一人で病院へと行くことにした。右腕はとてもとても痛むし、すごく泣きたいような気持ちではあったが 泣けなかった。泣くよりも悲しくて、骨折よりも辛かった。
ただ自分はデュエルが好きなだけなのに。
デッキに眠るカード達の声が、聞こえてくるような気がするだけなのに。
病院から連絡を受けた"育ての親"が心配そうに駆けつけてくれたが経緯を話す気にはなれない。治療代や入院費を負担してくれている恩はあったが詳しくは何も言わずに、ただ「ごめんなさい」とだけ謝れば、保護者である男ははぁ、と溜息を吐いて「大人しく入院しとくんだぞ」と言うのみだった。デュエルディスクは引き取られて行ったけれど、デッキだけは手元に残してくれた。
手術までは腕を固定したギプスを着け、あてがわれた病室でしばらく過ごすことになる。
通された病室には、先に入院していた患者がいた。
小波と同じ年恰好をした、茶色い髪の少年だ。
少年は入室してきた小波に気が付くとまず視線で観察し、害の無さそうな相手だと思ったのか、「よろしくな!」と声をかけてきた。よろしくするつもりは無いとは言えない。
「……よろしく…」
「オレ、遊城十代!お前は?」
「……小波…」
「小波か! なあお前ってデュエルする?」
もう、この子と会話してたくない。小波は「…うん」そう短く返事をしてベッドで横になることにした。が、
「やっぱり!なぁオレとデュエルしねぇ?いつも一緒にやってくれてる人が今日は検査中で忙しくてさ〜」
「…………しない」
「そう言わずになぁ頼むよ〜。デッキ持ってんの見えたぜ?やろうってなぁーなぁ〜」
「……………」
"右腕骨折してるから"
"今デュエルしたい気分じゃないから"
"つまんないデュエルにさせてしまうかもしれないよ"
「………じゃあ一回だけ」
「おっ!そうこなくっちゃな!あ、小波って腕ケガしてんのか?ゆっくりやっていいからな!」
「………わかった。ありがとう」"つまんないデュエルにさせてしまうかもしれないよ"