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十代と遊戯の誕生日祝い


6月4日――

この一見何の変哲も無い一年三百六十五日の中の一日には、知る人ぞ知る人には とても大きな意味がある。
デュエルモンスターズ史上、最も有名な決闘者が生まれた日……武藤遊戯さんの"誕生日"だ。






人様の家をドタドタドタ。
一年ぶりに訪れたゲームショップ「亀」の内装はちっとも変わってはいなかった為に、先に駆け込んでいた十代は「お邪魔します!」の一言と共に不躾すぎる音を立てながら目的の部屋へと向かって行く。
俺は勿論、十代みたいな事は出来ない。多分十代も、俺がちゃんと家の人に説明してくれるから、とでも思っているんだろう。だって去年の時もそうだったのだ。そして俺はその通り、去年とまったく同じように両手にプレゼントを入れた袋を持ったまま、戸口の方に向かって声をかける。
でもそれよりも先に「な、なにごと…?」と目を丸くさせたママさんがオタマ片手にキッチンから顔を出してきた。ああもう本当にすいませんうちの十代が。


「突然、不法侵入まがいのことをして申し訳ありませんでした…」
「……あら、あなた確か去年遊戯の誕生日の日にお祝いに来てくれてた子じゃない?」
「あ、はい!小波です。」
「ええ、覚えてる。赤い帽子が変わってないもの」
「ははは…」


不変のトレードマークがあって良かった。
お目どおりもすんなり行って、「遊戯なら昨日帰っててね、今は部屋にいると思う」と情報も教えてくれる。「ありがとうございます!」さてあのバカはどうしてるのか。よもや一人で先に遊戯さんに会ってやしないだろうな。さすがにそれは怒るぞ。
袋を壁や床にすらないように、慎重に音を立てないよう階段を上がる。でもこれも無駄な努力かも知れない、十代のせいで。

遊戯さんの部屋の前に、十代が立っていた。「じゅ、」声をかけようとするよりも早く、人差し指を立てて"静かにしろ"と伝えてくる。微かに部屋の中から人の存在を感じた。いるんだ、遊戯さんが。
十代が頷いたので、それに頷き返す。ドアノブを持って一気に…



「お誕生日おめでとうございます遊戯さん!!」
「ご、ごめんなさいお邪魔してます」



「 こんにちは十代君、小波君。久しぶり」


突然部屋に飛び込んで来た赤ジャケットと赤帽子の男たちに驚く様子もなく、笑って迎え入れてくれた遊戯さんを尊敬するやら、挨拶もなしにいきなり本件を告げた十代の後頭部を殴りたいやらで俺はドキドキしていた。
でも実際は、久しぶりにお会いした遊戯さんの姿に緊張しているのかも知れない。声が震えなけりゃいいんだけど。


「一年ぶりです遊戯さん。あ、あの、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。二人も、元気そうで良かった!」


俺や十代みたく、遊戯さんも諸国を旅しているとのことだが、一年前よりも幾分日に焼けたような顔をしていた。
昨日旅から帰って来てたとのことだけど、部屋の中には特に長旅の荷物やらは見当たらない。少し、殺風景だった。


紫暗色の遊戯さんの眼が、俺の持っていた袋を見つける。パァっと顔を輝かせてくれた。


「それ、もしかして僕に?」
「はい」
「俺と小波二人からプレゼントです!」
「ありがとう!なんだか沢山あるね」
「最初は色んな国のお菓子セットだったんですが、それも味気ないなってことで十代と…」
「アメリカで先行販売してたオリジナルパックBOXも手に入れて来ました!」
「えっ、それって昨日アメリカで発表されたばかりの奴だよね!?」


さすが遊戯さんだ、とびっきりの食いつきを見せてくださったぞ!
俺と十代は喜んでくれた遊戯さんの姿に、顔を合わせて笑い合う。苦労して…いや、十代のチート能力でさほどな苦労はせずにそのままアメリカで購入できたBOXセットだけどここまで喜んでくれたならそんな事は置いておこう。
他にも、誕生日用に包装された菓子詰めを取り出す。出す順番を間違えたような気がしないでもないが、まあそれはそれ。


「こんなにたくさんありがとう。食べきれるかな」
「遊戯さんの旅行記とか聞きながら食べましょうよ!」
「それも良いね。十代君と小波君の旅行譚だって聞きたいなぁ」
「…聞いてくれますか遊戯さん、十代のバカの破天荒っぷりを…」
「…苦労してるみたいだね、小波君」
「苦労?そうかぁ、小波?」
「自覚しろ!このバカ!」
「えぇ〜?」


遊戯さんの前だからって良い子ぶろうとする十代に鉄拳を加えようとしたところで、遊戯さんの携帯が軽快な音を立てる。
「あ、城之内君からメールだ!」…なんだって、あの城之内さん!?思わず手を止めて遊戯さんの動きに注目してしまう。
メールの内容を読んだ遊戯さんは嬉しそうにこう言った。


「集まれたみんなでパーティーを開いてくれたみたいなんだ」
「えっ、本当ですか!」
「良かったですね、遊戯さん!」
「うん! それで、今から出かけなくちゃなんだけど…二人は、」
「あ、じゃあ俺たちはこれで失礼します」
「小波と観光してくんで、大丈夫ですよ遊戯さん」


最後まで遊戯さんは申し訳なさそうにしてくれた。俺たち二人に気を遣うことなんて一切ないのに、優しい人だな。俺と十代はプレゼントを渡せれただけでも満足しているのに。

「本当にありがとう、二人とも。また会おう」
「はい!」
「失礼します。良い誕生日を過ごしてくださいね」
「うん」


別れを交わして、遊戯さんの部屋から退出する。途中擦れ違ったママさんにも挨拶をして、ゲームショップ「亀」を後にする。プレゼントを渡したことで手ぶらになった腕をうーんと伸ばし、すぅと童実野町の空気を胸いっぱいに吸い込む。この町が"故郷"と言うわけでもないのに、なぜか懐かしい匂いがした。
一年前よりももっと近代化が進みつつあるこの町には、バトルシティの跡地と言うことでたくさんの観光者が訪れている。かく言う俺と十代もその内の二人だ。久しぶりの日本を満喫したがっているのは俺だけじゃない。


「おし、ここからは二人の時間だぜ小波」
「ユベルがいるから三人だろ?」
「細かいことはいーんだって。ほら行くぞ。まずは童実野美術館だな!」
「いきなりそこから!?」