『めざせデュエルキング!』
小波の部屋に貼られているポスターについた煽り文だ。
その前面に映し出され、デュエルディスクを構えポーズを取っているのは俺
先生たちからの申し出で一年生のいつだかにモデルをしたもので、デュエルアカデミア宣伝目的もあったんだと思う。ポスター撮影のモデルだなんて面白そうだと思ったけど、撮影が終わって形になってからはどうにも気恥ずかしくなり、生徒の手には渡らせないでくれとクロノス教諭に頼んだんだった。
それなのに、小波は一体どこからコレを手に入れて来たんだろうか。
「今さらイイじゃんか」
帽子の下で照れる小波の姿はずっと見ていたいが、はぐらかされる返答は求めてはいない。
「どこで手に入れたのかぐらいは教えろよ」
尚も言い募ると、小波は更に困ったように「う〜…」と唸り、頭まで抱え始めた。言いたいことを遠慮する節がある小波には珍しくない光景だけど、俺には、どんなことでも素直に話してくれるもんだと思ってたから少し面白くない。だからつい口調が強くなってしまう。
「…そんなに言えないようなことなのか」
「やっ! そ、そう言うんじゃないけど、さすがに映ってる本人に問い詰められると答えづらいって言うか」
言えないんじゃなくて、言いづらいだけなら言ってほしい。
催促の念を目で送っていた俺に根負けした小波は渋々話し出す。
「見つけたんだ」
「…見つけた?」
このポスターが、小波の眼に見つけられるべき場所なんて思いつかない。先生達も、学校の廊下にも掲示板にも、今は貼っていないものな筈なのに。
「…一年の終わりの頃だったかな。矢ヶ城先生に頼まれて、資料室に教材を戻しに行ったんだ。終わって部屋を出ようと思ったら丁度クロノス先生と会って、どうしてかついでに資料室の掃除もしてってくれって言われて…断ろうと思ったんだけど、出来なくてさ」
小波らしいエピソードだ。他人に何かを頼まれるとどうしても断れず請け負ってしまう。それにその話は俺も覚えている。確かその時にも小波とタッグを組んでいて、先生に仕事を頼まれてからえらく帰りの遅い小波を待って教室でデュエルをしていたっけ。やっと帰って来た小波が、やけに埃っぽくて挙動不審で、息切らしてたような。
「掃除し出すと凝り出しちゃってさ。埃の積もってたロッカーの上とかも雑巾で拭いてたら隅の方に画用紙とかと一緒に置いてあった…ポスターを……見つけてだな……」
「…で、保管されてあったのを拝借したってわけか?」
「いや!ちゃんとクロノス先生には訊いたぞ!貰ってもいいですか、って。そしたら『掃除のお礼ナノーネ!一枚でも十枚でも持って行くがイーノーネ!』って言ってたから遠慮なく…」
小波、クロノス先生のモノマネ得意だよな。 なんてそんな事はどうでもいい。
それで小波は俺の映ったポスターを素直に拝借したらしい。
しかもわざわざ、俺に見つからないように一度レッド寮の自分の部屋にまで戻ってからポスターを置いて、それからまた教室にとんぼ帰りして。
そこからのことは分かってる。
翌日の朝、小波を起こしに部屋へ突撃した俺が壁に貼られてたポスターを見て驚く。理由を訊いても曖昧にはぐらかし続けてた小波に今日ようやく、大筋を話させたんだ。
「…でもよぉ、飾り続けることは無いんじゃねぇの? もう剥がせば?」
見慣れはしたけど、やっぱり恥ずかしい。増してそれが俺の部屋にあるんではなく小波の部屋にあると言うことが、何でだか一番恥ずかしかった。
それなのに小波はキョトンとしたまま、
「どうして?十代かっこよく映ってるじゃんか。卒業までは飾っておくつもりけど」とか言い出すし。
「か、カッコイイって小波、お前なぁ…」
「お? もしかして照れてる?十代」
「そりゃ照れもすんだろ!だっておま…」
え、が、言ったんだ、から…って、俺は一体なにを言おうとして…??