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二人でエジプト旅行


午後を走る列車に乗っている客の数は少なかった。

タタタン タタタンと一定のリズムで揺れる車体に隣に並んで掛けていた十代は早々に屈服していて、俺の肩に頭を凭れさせ「ぐぅ」と寝息を立てている。
旅の同伴者が眠ってしまったことは退屈には繋がらず、車窓を流れて行くエジプトの田畑風景を目で追っていることも楽しかった。 十代も、起きていれば良かったのに。
朝早くに泊まっていたホテルを出発したせいで寝不足なんだろうけど。かく言う俺も、もう少しホテルのベッドで寝ていたい気持ちはあった。少額だった割にサービスも部屋のレベルも高いホテルに泊まれたのだ。色々ホテルや宿には十代と共に泊まって来たけど、もしかしたら歴代で一位かも知れないな、なんて考える。


十代と共にデュエルアカデミアを旅立ってから半年が過ぎた。
まず最初に十代がやりたかったことが「海に出よう!」だった為にすぐの海外漫遊を強いられたわけだが、アジア大陸を南下しつつ色んな国や町、村を渡り歩いている内にいつの間にかエジプト入りが決定していた。
俺も十代もエジプト自体には凄く興味があって、それは「デュエルモンスターズ発祥の地だから」とか「古代のロマン眠る国」だとか「遊戯さんに宿っていたファラオの魂が眠る場所!」なんて挙げれば次々に理由は出てくるだろう。要するに、二人ともとても楽しみにしていたんだ。ホテルでパンフレットや現地の言葉で書かれたガイドブック(これは俺も十代も読めなかった)を眺めてあれやこれやと模索していた。

とりあえず「王家の谷」は欠かせないだろうと言うことで、そのルートを辿るべく列車に乗り身を揺らせているわけだ。十代は夜行列車が良いなんて言っていたけれどそれは許可できない。資金は限られているんだ。幾ら十代がデュエル大会で優勝して賞金を稼いで来るとは言え、無駄遣いは許したもんではない。 それに、どうせどの列車に乗っていたとしても十代は今みたいに寝入ってしまっていた筈である。



僅かに開けられている窓からは渇いた砂と共に生暖かい風が吹き込んでくる。
俺の帽子を揺らして、十代の制服の襟をはためかせた。
隣から、「なぁお」と鳴き声が上がる。


「ファラオ、どうした?」
「ぶにゃ」
「目に砂でも入ったか?」


ファラオの目を覗き込もうとして失敗した。 動けない、十代が肩に乗っかっているせいで。
「…あぁーもう、十代! そろそろ起きろ!」
いきなりジャパニーズが大きい声を出したぞ、と反対側の長椅子に腰掛けていた老夫婦が驚いたように目を見開く。あっと気付いて、伝わるのか分からないけど一応「Sorry.」と頭を下げておいてから今度は小声で十代に呼びかける。 くぐもった反応しか返ってこない。お前は人の肩でどんだけ熟睡してるんだ!


「十代、寝すぎだ。また夜に眠れないぞこのままじゃ」
「…んー…、……小波?」
「うん、俺 起きろー」
「んん……あー…」


ようやく俺の肩から頭を上げた十代が大きく伸びをする。
凝り固まっていた身体をほぐしきり、やけにスッキリした顔で「今どの辺だ?」と問いかけて来た。
毎度のことながら切り替えが早いな。


「もうちょっとだと思う。 …アナウンスが何言ってるのか聞き取れないから憶測するしかないんだ」
「やっぱガイド雇うべきだったか?」
「…"二人で回りたい"って言ったのは誰だよ…!」
「やっべ」


いたずら子どもみたいにおどけた表情で調子に乗る十代の姿に、俺はそんな場合じゃないと分かっていても安心する。

良かったなぁ、なんて。



「……」
「…ん? ボケッとしてどしたんだ十代」
「いや…やっぱり、"いるな"ってな」
「あぁー…精霊か。 外に見えたのか?」
「ん?列車内にもいるぜ」
「いるの!?」


オッドアイになった十代の眼には見えているデュエルの精霊の姿も、凡人である俺には見えはしない。でもその正体は認めている。 何故なら、"十代がいる"と言っているからだ。
小波の目の前に来たぜ。 十代が指差したことで俺は「えぇっ!?」おっかなびっくり前を向く。相変わらず驚いたように此方を見ている老夫婦がいるだけなのだが、問題なのは


「怖そうな奴か? 可愛らしい奴か? それとも…」
「≪ピラミッド・タートル≫かな」
「まんまじゃねーか!」


あ、つい声を荒げてしまっ


「………小波から離れろ」
「え!? 俺いまどんな事されてんの!?」


確かに何だか身体が何かに重く伸し掛かられてるような感覚がする。

 もしや、もしや、  亀にのしかかられてる!?






その後、どうにかして俺の上に伸し掛かっていた(らしい)ピラミッド・タートルを除けてくれた十代は、列車が目的の駅に止まるとすぐに荷物と俺の手を取って立ち上がり、さっきまでの不機嫌さが嘘のような顔で「よし!ピラミッドにスフィンクスに王墓!全部見て回るぞ!」と飛び出して行った。十代いつの間にガイドブックにそんな付箋してたんだよ俺知らないぞ!