その日、任務疲れがピークに達していたディーノの機嫌は最悪だった
だが最悪を通り越していると本人も自覚しているのか、
なるべく他に当たってしまわないように、基地の外に出て独りで過ごしていた
カッチンカッチンとブレードを出したり仕舞ったりして時間を無作為に過ごす
オートボットの仲間達もディーノの事を心配していたが、
触らぬディーノに痛みなし、と遠巻きに見守っているだけだった
そんなディーノの許へ、同じく任務終わりで疲れているレノックスが堂々と声を掛けた
「ようディーノ お疲れ」
≪……ヒューマンレノックスか…≫
「少しオレと話さないか?」
≪…お前と、話をだと?≫
ナマエから聞いたのだ。疲れて苛立っている時のディーノには、自分の話を吹っかければ機嫌もすぐに治ると
まるでノロケにしか聞こえなかったが、そんな解決方法があるならば是非活用させてもらうとしよう
このままディーノをほったらかしにしておいて、基地内の雰囲気がギスギスさせてしまうわけにはいかなかったから
「ナマエさんのことだ。お前も気になるんじゃないか?」
≪ナマエの……?≫
ナマエの名前が出た途端にオーラが1/3ぐらいに収縮したような気がする。
さすがだ
「ああ、あの人の昔の恋愛話さ!」
聞きたいか?と一拍置いて訊ねる。さて、この話にディーノは食いついてくるだろうか
ナマエの…昔の恋愛……と声帯モジュール内で呟いたディーノ
迷ったのは数秒だけだ
≪聞かせろ≫
「オーケイ」
昔の恋愛事情にも少し興味があったし、一々昔の話を聞いて無条件で落ち込んでしまうような柄ではなかった
腰を据えて話し出したレノックスに、自然とディーノも体勢を整えた
「軍事生活が長かったナマエさんだけどな、実はああ見えて結構モテモテだったんだこれが」
≪…例えば誰にだ≫
「オペレーターの歳若い女、兵士達の身の回りの世話をしていた婦人、女性部隊の女兵士……大体この辺りだな。ナマエさんは顔も良いし、体格も良いだろう?それに物腰も穏やかで優しい、って女性達はナマエさんを放っておかなかったな」
≪………≫
少し不機嫌な顔をしたディーノに、隠れて笑ってしまう
「でもな、ナマエさんは脇見をしなかった。何故だと思う?」
≪…さぁな?≫
「それはな、愛車のフェラーリを溺愛してたからさ!」
≪!!≫
根っからのフェラーリ好きだったナマエさんは女性と居ても車の話ばかり
女性を思いやったり気を遣ったり、なんて言うことは一切しなかったという
ナマエの頭には自宅にいるであろうフェラーリの事
自慢の愛車、ただそれだけだったらしい
「あの人も中々だとは思わないか?ディー…」
≪やっぱりそうだって思ってたんだ…!≫
「……は?」
ディーノのオーラが、また強くなったような
≪アイツ…っ、今も絶対その昔のフェラーリのことを忘れてないぜ。いつも寂しそうに遠くを見てる時がある。その時に、どうせそのフェラーリのことでも、思い出してるんだろうさ!何なんだよ!!≫
「お、落ち着けディーノ…」
≪今はオレがいるのに!≫
「え」
≪何でアイツはオレで満足しない!?まだ昔の奴に比べて、オレの方が劣ってるのか!?≫
「そ、そんなことは」
≪ 腹が立って来たぜ! 今から帰る≫
「何!?」
≪そしてアイツに、どっちがお前のことを想ってるのか分からせてやる!≫
「・・・・」
そう言ってトランスフォームし基地を出ていってしまった
・・・・ナマエさん、今は謝ることしか出来ません
いきなりウチに不機嫌になって帰ってきたディーノの相手を
どうかしてやって下さい