学校の帰り道、道端で、猫を拾った。
≪ニャー≫
「ほら"ニャー"って鳴いてる。どっからどう見ても捨て猫だ」
「どっからどう見てもトランスフォーマーだろうが!! しかも!デストロンだろそいつ!!」
「ニャンだと?」
「うっせぇ自称猫好き!肩書き剥奪すんぞ!」
怒り狂う友人を他所に再確認してみる。
「猫じゃないのか?」
≪ニャー≫
「なんだやっぱり猫だった」
「猫じゃねェー!!!」
友人は持っていた部活バッグを放り出さん勢いで後ろに仰け反った。相変わらずツッコミとリアクションの良さに定評のある我が友人だ。
しかしこの猫の可愛さを理解出来ないとは情けない。
確かに持ち上げた時、機械の体は重みがあって一苦労だが、それ以外に問題は見当たらない。
黒くしなやかな肢体を 俺を誘惑するかのように足元に擦りつけ、円らな瞳で見つめて来てはニャアと鳴きついてくる。
これを『拾ってください』のサインと捉えずになんと捉えようか。
「よしよし」
硬い頭を撫でてみる。頭を撫でられることが好きなのか、猫はゴロゴロとすり寄って来た。かわいい。
「おい普通にヤベェって!!きっとそいつの本当の飼い主なデストロンがやって来てボコボコにされるかもしれねぇんだぞ!」
「なにっ動物虐待だと!?見過ごせん!!」
「ボコられんのは俺らだっつーの!!」
≪ミーのペット返すヨー!!≫
「ほら来たああああ言わんこっちゃねえええええ」
赤いバイザーを光らせた大きなトランスフォーマーが大股で、若干焦ったように走ってくる。
俺の背後に隠れ、盾にした友人はひたすらに「謝れ!先に謝っとけナマエ!」の言葉ばかりを繰り返す。なぜ俺が謝らなければならなんのだ。
「この猫は路頭を彷徨っていた。なので俺が拾ったんだ。老衰まで面倒を看る、任せてくれないか」
≪ジャガーは任務に出てたんだヨー!コンボイの寝首を取るって重要な任務にヨー!≫
「名前からして猫じゃねえええええ!!」
どんなに恐怖に支配されていようとツッコミの手を入れることをやめない友人のお陰でこの猫の名前を知ることが出来た。
「ジャガー、と言うのかお前」
≪ニャー≫
「いい名前だな」
「センス疑うわ!ナマエの!!」
≪ジャガーはミーのペットだヨー!返さないと痛い目に合うヨ人間ー!≫
「ほら来たお約束の展開だ!!」
「大丈夫だ」
「お前の自信はどこから来てるの……」
「これはギャグマンガだ。キャラは死んだりしない」
「際どい発言はやめろ!」
さっきから、目の前のデストロンからよりも友人からの方がダメージを貰っている気がする。ツッコミの手が痛い。
叩かれて赤くなった掌を擦っていると、ずっと足元にすり寄って黙っていた猫……ジャガーがそこをペロリと舐めてきた。
「………ジャガー…」
≪ニャー≫
「…ああ、ありがとう。もう痛くない」
≪ニャー!≫
≪……何だヨーこのションボリとした気持ちはヨー≫
「あんな穏やかな顔したナマエとか初めて見た……」
≪あの人間ならジャガーのことを大切にしてくれそうな気がするヨー…≫
「お、おいデストロンさん!?しっかりしろアンタ!」
≪ジャガーを末永くよろしく頼むヨー!!≫
「涙ながらに去って行くなああああ!!」