サムとは小さい頃からミカエラを取り合った恋のライバル(兼幼馴染)だった
別に取り合った、と表現するほど俺達はミカエラにアプローチをしていたわけではなく、ただ席替えをして隣同士になった方が勝ち、とか
食堂でミカエラの隣に座れた方が勝ち、とかそういった類の小競り合いばかりだった
幼い頃からそうやってお互い抜きつ抜かれつな喧嘩ばかりしてきたわけだが、
最近、サムに彼女が出来た。
そのお相手が
「ちっくしょおおおおおぉぉおお!!」
「煩いよナマエ。もう泣き止んでくれよ」
「サムめ…お前はいつからそんな偉そうな態度になったんだよ…そうか、ミカエラと付き合いだしてからかそうか…」
「何回目だよその台詞。いい加減聞き飽きた」
「アホ!サムのアホ!!しかもなんだ、カッコいい車買っちゃってさ!お前の親父さんがよくカマロ買うなんて許してくれたもんだな!」
「ああ、そう言えばナマエには言ってなかったっけ」
「は?」
「こっち来て」
案内されたのはガレージ。シャッターを押し上げると、中には真っ黄色で真新しい金ピカのカマロ。サムの愛車
「なんだよ自慢したいのか?」
「違うって。ミカエラのことは譲らないけど、この車の秘密だったら教えてあげてもいいよ」
「はー?秘密?車の秘密ってなんだよ。実は空飛ぶ車とか、か?」
「空を飛ぶよりもっと凄い秘密さ」
中に入ってシャッターを閉めると、窓から差し込む日の光しか射さない薄暗いガレージ
その中で黄金のカマロはキラキラと輝いていて、前から車が欲しかった俺も
買うんだったら黄色にしようか、いやでもサムと被るな、とか考えていたら
サムがそのカマロのボンネットに手を置いた
「バンブルビー、彼は僕の幼馴染のナマエ。言葉遣いは荒いけど、根はいい奴で信用できる相手だよ」
「は?サム、お前なに車に話しかけ…て…」
それはイキナリだった。
車が見る見る分解していく。っていうか分解されて、更にはそれが形づくられて行く。
キュルルル、とタイヤが回る音、ガシャンガシャン、と金属がぶつかる音
狭いガレージの中で、窮屈そうに動くそれは
「………ロボット!?」
「ああ、オートボットのバンブルビーさ」
「え?は?な、なんで車がロボットに、っては!?」
「ま、当然の反応だよね」
バンブルビー、と呼ばれたそのロボットが膝をついて俺に目線を合わせて来た
絶えず光輝いているその目でじっと俺のことを見つめてくる
驚く、とかもうそういう次元の話ではなかったが、
そいつがきゅうん、と金属音みたいなのを鳴らしてきたから
何故か俺はもうそいつに慣れていた。伊達に適応能力があったわけではない
「…めっちゃくちゃかっけぇじゃんか」
「だろ?」
「なんだよサム!ミカエラのみならず、ロボットに変形するカマロまで持ってるなんて!お前の幸運期、今が超ピークだから!お前のこれからの人生お先真っ暗だから!」
「はいはい、何とでも言いなよ。ごめんねバンブルビー、言葉遣いは荒いし、それにとっても騒がしい奴なんだ」
《"とっても面白い奴だ!" "貴方となら仲良く出来そうね" "いやー素晴らしい!"》
「!?な、な、」
「ああ、バンブルビーは有線放送のラジオの音声を切り貼りして会話するんだ」
「喋れるのか!?」
すげぇ!と言いながらバンブルビーの大きな金属の手に触る
首を傾げたバンブルビーに「握手だよ、握手!」と言うと
理解したのか嬉しそうに両方の手で俺の右手を覆う
「なんか…」
「ん?」
「かわいいな、バンブルビーって」
思わず呟いたその言葉に、サムがとっても嫌なものを見る目で俺を見る
「……ミカエラが駄目だったからってバンブルビーにするのも駄目だからね」
「お前は俺を節操なしかなんかかと思ってんのか!こちとら小さい頃からミカエラ一筋だったんだぞ!」
「僕だってさ!」
《"まぁまぁ落ち着いてよ二人とも" "男の喧嘩は拳で語り合わなくっちゃなあ!"》
「よおし望むところだサム。今日と言う今日はお前の鼻先ぶちのめしてやる!」
「僕だってお前の両目を潰してミカエラもバンブルビーも見られないようにしてやる!」
「悪魔か!」
結局、俺は右頬と左瞼をぷっくり膨らまされ、サムは唇を切って鼻血を大量に出した
俺とサムが殴りあって盛大に喧嘩している様子をガレージで身体を動かしながら観戦していたバンブルビーとは、この先、大の仲良しになることを今の俺達は全く想像していなかった