何処の車種か分からないし見覚えもないが、変な赤い車に絡まれた
乗用していた人間にではなく、車本体にだ
いや、絡まれたと言うよりかは、
絡みに行ったら絡み返されたというべきか
≪この私に声を掛けるとは、人間だがいい眼をしている≫
「…………は?」
路肩に駐車されていたこの車があまりにも綺麗で、
誰が乗ってるんだろう、誰の持ち車だろう、内装は?塗装はどうなってるんだ?と気になりすぎて吸い込まれるように近付いていったらこのザマだ
どうなっている?最近の車は、ロボットに変形するオマケ機能まで付いているのか?
ロボットになった赤い車は、何故かそこそこ調った造りをしていた
赤い瞳が爛々と輝いていて、その色に少し怯える
≪ほう………≫
「・・・・は、はい?」
謝って逃げ出すタイミングを失って焦る俺を
この赤いロボットは高い視点から俺を見下ろしながら、値踏みするかのように細い指を動かす
≪スタイルはまあまあだが、顔はそこそこ良いな≫
「………批評された…」
ロボットに
この車、どれだけオマケ機能付いてるんだよ
何だかだんだん、感覚がマヒしてきた。この状況、本来ならもっと怖がったり怯えたりしなければいけないような気がするけど、
このロボットがあまりにも不躾な視線を寄越すものだから俺としては睨み返すのに精一杯で足も動かせない
≪最近、よく人間共に呼び止められるんだ。無人車が道路を走行しているとか何とか面倒なことを言われてな≫
「む、無人車!?…え、お、お前さん持ち主とかは…」
≪オツムはバカなのか?私はトランスフォーマーだ。持ち主なんていない。私は私のものだ≫
「………へぇ」
意味が分からん
俺を放置して、目の前のロボットはどんどん喋り出す。お喋りなロボットて
≪それで、だ 不名誉極まりないことなんだが、人間のホログラムでも作って浮かべておけば面倒な奴等に捕まらないで済む、と考えた≫
「…は、はぁ…」
≪そこで 光栄に思え人間?お前を私のホログラム役に任命してやろう≫
「……なに?」
何かに任命されたが、全く意味が分からなかった俺としては何に任命されたのかサッパリだ
此処でずっと人間が通るのを待っていたんだが辺鄙な場所を選び過ぎて、近寄ってきたのはお前だけだからな。仕方ない、と言いながら目の前のロボットは身を屈めて俺にグッと顔を近づけた
「…なんだ!?」
≪そう怯えるな。痛くないぞ?≫
一瞬でも綺麗な顔だな、と思った俺はいよいよおかしい
≪じっとしていろ。私の目を見るんだ≫
「…?…!?」
よく分からないまま、指示された通りにロボットの赤い眼を見つめる
するとその眼から青いレーザーのような光が発射される
その光は俺の頭からつま先までを余すところなく包囲した
≪よし、これでいい。もうお前は用済みだ。見逃してやるから、消えな≫
「……」
シッシ、と犬を追い払うかのように手を振ったロボット
足取りが覚束無くなっていたが、緩々と反対方向に向かって歩き出した俺に、ロボットが声をかける
≪……―ナマエ、22歳、一人暮らしのO型、天秤座……ああ、喜べ。私との相性抜群だ≫
「!?な、何で俺の個人情報を!?」
≪スキャンしたからな、分かるんだ≫
じゃあな、ナマエ
そう言ってロボットはまた元の車の姿に戻り、エンジンを吹かして走り去ってしまった
助手席には、俺の姿をしたホログラムが座っていた