それは圧倒的と言うに相応しい殺戮だった
たった一人、たった一人の者を壊す為に出兵した、
熟練の戦闘兵達で組まれた一隊は見るも無残な姿でスクラップになっていた
自分の部隊も援軍に駆けつけたが、それはもう事なきを得た後であり、
かつての仲間達のソレであったモノに見かね顔を背ける事しか出来なかった
≪……オプティマス司令官に、ご連絡しろ≫
≪は、はい ――――! ナマエ殿、駄目です。此処は電波遮断区域内になっています!≫
≪なに?そんな筈は―――――≫
此処は我等オートボット軍の陣営だ
侵略を許してはしまったが、内部から回路を切られたなどと言う失態は犯していない
何かの間違いか、それとも…と部下である通信兵の方を振り返る
その後すぐに、耳を劈くような破裂音がすぐ隣で聞こえた
≪…!?≫
自分のすぐ隣で焼け焦げた姿となって倒れた通信兵の姿がアイセンサーに映る
生体反応は感知していない
思わず飛び退き降り立ったそのすぐ後ろでまたさっきと同じ爆音
≪ぎゃああああああああああああああ!!≫と顔馴染みであった部下の聞きなれた声が絶叫となって聴覚センサーに届いた
≪なん、…≫
だ、の音は紡げなかった。右足に強烈な痛みが襲ったからだ
膝から地面に崩れ落ち、バランスが保てなくなる。
振り向けば、右足が、ない
絶望と痛みに呻きながら顔を横に向ける
そのすぐ隣では1人、また1人と部下の叫び声が聞こえ、
手を付いた地には流れ出したオイルが…
痛みに悶えながらもセンサーの感度を上げ、4km向こうの影に気付く
高々と腕のキャノン砲を掲げ、次々と殺戮を繰り返している奴は――
≪……な、んで……≫
戻ってきたんだ、メガトロン
我等オートボットの敵、そう何の迷いもなくブレインに刻み込まれた名
一度この辺りを殲滅したくせに、何故また部下を引き連れて戻ってきた?
まさか援軍が到着することを予期して、自分達をも余さず殺そうと?…なんて奴だ、ちくしょう
暫くして、音が止んだ。メガトロンとその部下達がどんどん此方へと近付いてくる。
仲間達の亡骸を見下ろしながら歩いてきているということは、生き残りがいないかを確認しているのか
恐ろしい
怖い
紫暗色の目
圧倒的な力
臆するしか出来ない威圧感
これが
ディセプティコンのリーダーか
対峙するのも、まともに視界に入れるのも初めてだった
だが分かる。アレは、―――恐ろしい存在だ
だんだん、だんだんと此方へ近付く
俺はもう、向かって行くということをわすれた
奴らに見つからないように、同僚達から流れ出した血溜まりに身体を横たえ、顔を埋める
臭気センサーは今日も感度よく動いていた。噎せ返ってしまいそうなオイルの臭い
しかもそれは、部下達のモノだ
でもそんなことは、今はどうでも良かった。
此処を逃れれば、生きる機会はあるかもしれない。死んだフリをして、やり過ごせば、この場を抜け出し、司令官に報告出来るかも…… (会って、お前は一体何を伝えるつもりなのだ)
だが、隠し通せるとは思っていない
生命反応を調べられれば、一目瞭然だ
わかっている。だがそれを欺くために本当に死ぬわけにはいかない
どうか、見落としてくれ――俺を、どうか
伏せているから周りの様子は窺えないが、足音がすぐ近くで聞こえてきた
もう此処まで来たのだ。遅い、早く、立ち去ってくれ、頼む
兵士失格だ、分かってる、恥さらしとなるか、知るものか
≪……………≫
さっき感じた負のオーラ、威圧感、間違いない
俺のすぐ傍らに、メガトロンが立っている
スパークはこれ以上ない程に激しく脈打つ、気付かれてしまうではないか、鎮まれ、
いや、何を言っているんだ俺は。メガトロンは、気付いている。俺が生きていることに
こんな近くに来て、気付かないなんてどうかしているではないか、
終わりだ。直ぐに終わりが来る。圧倒的な殺戮、その力の片鱗を見せられたのだ、
傍に立たれているだけで失神してしまいそうだ
しかしメガトロンは何もやってこない。何も言わない。ただ見下ろしているようだ
≪…………≫
長い永い沈黙の後、メガトロンは
≪…………フンッ 無様だ≫
そう 言って 去って行った
――『無様だ』
俺のブレインは、何度もメガトロンのその言葉を反芻した
反芻し、目から溶液が流れてくる
悔しいわけでもない、憤りを感じたわけでも、プライドを傷つけられたわけでもない
ただ、空しかったのだ
偽ってまで生き長らえようとした俺に対する、殺戮者のたった一言
俺はもう、司令官の許へは、行けない