両目のアイセンサーの感度は悪くなっている。貫かれ、中のコードを抉るように引き千切られたのだから、辛うじて、ぼんやりとだが、ラチェットの姿が見えることにはプライマスにこの悪運を感謝しなくてはならない。ただ、ラチェットは先ほどから泣いている。膝の上に俺の頭部を乗せて、冷却水を惜しげもなく流しながらラチェットは泣いている。引きつっているのか、声帯モジュールからはひっきりなしに意味のない音が漏れている
≪ラチェット、そこに、いる のか≫
≪ああ、ここだ、ここにいる≫
≪ かたい、≫
≪機械の身体だから当たり前、だろう 莫迦≫
泣くラチェットを慰めようと伸ばした腕が肩の関節ごとゴトリと落ちてしまった。そうだ、酷く損傷していたのを忘れていた。落ちた俺の腕にラチェットのアイセンサーが大きく見開かれる。あぁ、そんなに見開いたら飛び出してしまうんじゃないのか?
≪大丈夫だ、安心しろナマエ もうすぐだ、もうすぐ、アイアンハイドが増援に来る。ホイルジャックも呼んだ、パワーグライドもすぐ迎えに来る≫
≪ おう、≫
≪だからもう少しだ、大丈夫、お前は死なない、戻ったら必ず私が治してみせる、だから≫
≪ラチェット、≫
≪なんだ≫
≪俺の胸をみて、くれないか?さっきから、違和感を 感じるんだ≫
≪何でもない、何もおきてない、安心しろ、大丈夫だからナマエ≫
≪そうか ≫
大丈夫と何度も繰り返すラチェット。すまない、訊ねておいて悪いが違和感の正体、俺には分かってる。胸部を貫かれた際の傷口からスパークの粒子が漏れているんだろう。
俺は医者ではないが、流石に分かる。俺は助からない
あ、センサーの調子がわるくなってきた。ラチェットの姿が見えなくなったぞ畜生
≪ ラチェ、ット、 おれ、は≫
≪なん、! あ…っ、 パワーグライド!!こっちだ!!!早く来てくれ、ナマエが…!≫
もう何も見えなくなった 何も聞こえなくなった
それに何も感じなくなったから、おそらく俺は死んだんだろう
最期に聴けたのがラチェットの声で、俺は幸せだったと思う