ラチェットに発声回路を切られてしまった
と言うのはまあ半分冗談だが、争いの鎮圧に向かった任務地でヘマをしてしまい回路が犇く箇所を破損してしまった
中でも発声回路が大きく傷ついてしまっていて、一度ラチェットに診てもらうことになった
たった数時間の間だけだから特に支障はないはず。そう思っていた
俺の正面から、ふらふらとどこか覚束無い足取りで歩いてくる男がいた
センサーの鮮度を上げて拡大してみると、どうやらナマエだった
様子がおかしい。酩酊しているわけではなさそうだが、両の手が虚空を彷徨っている
今にも転んでしまいそうだ
ダッシュで近寄って、ナマエの前に来る
≪おい、ナマエ≫
と声をかけたかったが、そうだ、今発声回路が、と音にはならない
俺が前に来たのだからナマエの足取りも止まるだろうと思っていたのに、ナマエは止まらない。焦る俺を無視して、思い切り俺の脚に激突した
「――!? いてっ!?」
な、何がしたいんだ?コイツは
「…んー……?こんな所に、黒い柱なんてあったっけか……?」
≪…!?≫
ペタペタと脚部に触れられる。ナマエの目は厳しく細められ、眉間には皺が寄っていた
そんな形相で見られる覚えはない。そもそもナマエは俺の存在に気付いているのか?
声を出したいが、発声回路は動いてくれない。
「……?」
一頻り触って確かめた後、迂回しようとしているのかそのまま何も気にしないように歩いていこうとする
慌てて未だにフラフラとしているナマエの前に手を伸ばす。今度は俺の手に激突した
「…なっ、何だ!?」
当たって赤くなった額を押さえながら、ナマエが再度俺の手を睨む
「此処にも壁が…… ん?」
ペタペタとナマエの手が段々腕にまで伸びてくる
そしてキャノンに触れた。そこで何かに気付いたのか、ハッと顔を上げる。しかめっ面で
「……アイアンハイド?」
そうだ、と声を出せない代わりに、エンジン音を鳴らしてみる。ロボットモードのままであったが音は出せた。
「すまん、気付かなかった。今コンタクト無くしててさ…」
だからだったのか。ナマエは確か極度に視力が無かったはず。軍の規則で一定以下の視力が決まっているが、確かナマエはそれより悪かったはず。いつもコンタクトや眼鏡を持ち合わせていたと言うのに、無くしたと。
返答を返さない俺をナマエが訝しむ
「………アイアンハイド?何で何も言わないんだ?気付かなかったことに怒ってるのか?」
≪……… ……!≫
「?悪い、お前の顔とか全然見えねぇわ……本当に怒ってんのか?」
顰めていた顔を困ったように、眉を下げる
話せない俺と
見えないナマエ
このままでは埒があかんぞ
≪…≫
「うおっ!?な、なんだアイアンハイド!」
ナマエの身体を抱きかかえる。このまま、レノックスの許にナマエを送り届け、俺はラチェットを急かしに行こう
大切な場面で話せないのはもどかしいし、ナマエの目が見えてないという不安も大きい
突然現れた俺とナマエに驚いているレノックスにナマエを押し付け、
俺はラチェットとジョルトの許に急ぐ。
≪まぁそう急くな 完治している≫と呑気に笑ったラチェットに溜息が零れるばかりだった