本当に不思議な双眼鏡だ
もう夜も更けて、大人しくベッドに入ったのはいい。でも、あの黄色い双眼鏡が気になりすぎる。無造作に机の上に放置し、月明かりでぼんやりと光る黄色い体。レンズはクリアで、黒い影を落としている
あの双眼鏡のことをお母さんは知らない、と言う。いつの間にかお父さんの探検道具の一つになっていて、何処で手に入れたのかも聞かされなかったらしい。だから誰もこの双眼鏡のことを知らない。霊媒師の人に頼んでお父さんの言葉を聞いてみる?
なんて、バカなことを考えていると
カタ
「…!?」
いま、うごいた
確かに動いた。
見間違いじゃない。
黄色い体が横に動いた。
夢じゃない。
絶対動いた、カタンって振動してた!
驚いて言葉を失い、布団の中で身動き出来ずにいると、
視線の向こうで、その双眼鏡が "立ち上がった"
≪よいしょ…≫
「ええぇっ!?」
≪えぇっ!?≫
喋った!?
布団の中から飛び起きると、その双眼鏡も吃驚仰天したのか後ろによろめいて尻餅を付いた。慌てて机の前まで駆け寄る
確かにその双眼鏡には、足らしきもの、手らしきもの、そして頭部らしきものが付いていた。ど、どういうこと?
「な、な、な、」
≪お、お、お前寝てたんじゃないのかよ!≫
「は、はぁ!?」
双眼鏡に怒られた!?
≪脅かしっこなしだろ!お前の寝顔をメモリーに保存するのが日課だったのに!≫
「え!?」
い、今、この双眼鏡なんて言った?
黄色の双眼鏡が、あ、ヤベ。みたいな顔してる
≪いやっ悪い!冗談だ、聞き逃してくれ!じゃ、おやすみ!≫
「待ちなさい!!寝かせるわけないでしょ!」
≪で、デスヨネー≫
双眼鏡の首根っこを掴むなんて体験、今日が初めてです