TF女主長編 | ナノ
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一世紀前のつづきをはじめます


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ロボットと言えど、ひたすらに隠れ続け、逃げ続け、そしてただ待つだけの日々というものは長く感じるし退屈極まりないものだった。
しかし、オートボット軍司令官オプティマス・プライム直々の命により、オートボットは逃避行を続けなければならない。
そも、人間に自分たちの存在を発見されてはいけない。
追行する人間に危害を加えてはならない。
守ってきた筈の人類から「破壊される」為に付け狙われる。
我等が司令官が、仲間たちが、身を粉にして戦い続けた結果が、正しく"これ"であり、それは、クロスヘアーズからしてみればとても我慢のならない現実なのである。勿論それは何も彼に限った話ではなかった。根っからの軍人気質であるハウンドなんかは毎日の如く人間に対する罵詈、愚痴を言い続けているし、"武士道"とやらを重んじているドリフトも 人間の起こしているトランスフォーマー掃討作戦に嫌悪のそれを示している。
だが我々待機班の中で唯一、過去に人間と交流を持っていたバンブルビーだけはどうやらその限りではないようだ。 そんなもんなんかね、とクロスヘアーズは胸中でごちた。

「人間」と関わりを持てば、バンブルビーのように、そしてオプティマスのような 平和的な意見を持つことが出来るのだろうか、と。






≪お師匠様ー!≫


長い思案の海の中からクロスヘアーズを引き戻す声がした。
遠くから自分の名を呼ばれ、二挺拳銃を磨いていた手を止めてクロスヘアーズは振り返る。
声の主が誰なのかは判別がついていた。
クロスヘアーズのことを"師匠"という呼称で呼ぶ者は、この宇宙にたった一人しか存在していない。


≪おう、帰ったかよ お嬢ちゃん≫


コンパクトカータイプのベンツから軽やかにロボットモードへとトランスフォームし、出迎えたクロスヘアーズの方へと一目散に彼女は駆けていた。


≪偵察班ナマエ、偵察任務よりただ今帰還いたしました!≫
≪おうおう、よくやったな ご苦労さん≫
≪はいっ!!≫


師と仰ぐ者に褒められ、嬉しさで一杯なのだろう。明るく顔を輝かせた弟子の姿に、悪いものは感じない。
どれ、褒美でもとばかりに頭も撫でてやれば、ナマエは更に挙動を慌てさせた。


≪わ、わわ、あ、し、師匠、いま≫

ナマエの内部回路がショート寸前だ。
基本的にクロスヘアーズのことが"大好き"なナマエには、たまらないプレゼントだったのだ。


――トランスフォーマーはその性質上、ある意味で"変化"に乏しい種族である。
プロトフォームを形成した時点でトランスフォーマーには先人たちが残した記憶という遺伝子を受け継ぎ、プログラム化しそのあらゆる情報を自分のものにすることが出来る。つまり生まれてすぐにトランスフォームすることを覚え、銃の扱いを覚え、敵の倒し方を覚える。そこで大体のものが自分自身の戦闘スタイルを確立し、以後それを変えることは滅多にない。
だが稀に、ナマエやバンブルビー、サイドスワイプのように比較的若い戦士たちの中には向上心を強く持った者が誕生することがある。彼女達は先人の知恵や技を学んだ上で、更なる己の進歩を図る。
サイドスワイプは、師にアイアンハイドを。
そしてナマエは、クロスヘアーズを選んだ。


クロスヘアーズも、オートボット軍の兵士として長い年月を生きてきたが、このかわいい若輩者のことは割りと深く、そして長く気に入っていた。
誰かにモノを教えることは得意ではないが、ナマエの素直な性格が幸いし、彼女はクロスヘアーズの技を見る見る内に習得していくのだ。それは傍で見ていてとても気持ちが良いものだったからだ。


≪人間たちの姿は無かったか?≫
≪はい!まだ居場所を感知されてはいないようですね。 まあ、ドリフトが「剣の修行だー」とか言って周りの岩肌とかを乱暴に傷つけたりして騒ぎを起こしさえしなければ、順調に隠匿できるでしょう≫
≪聞こえておるぞナマエ 決闘の申し出のつもりか?≫


傍の岩肌に腰掛けていたドリフトが耳聡く指摘する。
ナマエは≪なーに?本当のことでしょ!前だってバンブルビーとの口論の果てに二人でドンパチ始めた時はスパークが冷えたわ!≫負けじと強く言い返した。ほら見ろ、ドリフトの奴はすぐに降参した。基本的に、口の勝負でナマエに勝てる者はこの4人の中にいない。


≪ならまだここで、オプティマスからの次の召集命令がかかるまで待機続行ってことでイイんだよな? "指揮官"よ?≫

≪"OK!" "それで行こう!"≫

クロスヘアーズの問いかけに、現在の指揮官であるバンブルビーが軽快な返事をする。その様子にまたもドリフトが目くじらを立て、≪ビー!なんだその軽い返事は!仮にも我々の指揮官ならばもう少し威厳を持った…≫と全く同じ反論内容で彼に向かって行く。それに応戦するバンブルビーの姿も昨日と同じだ。ハウンドなんかもすっかり慣れた様子で≪おい、あんま煩くすんじゃねーぞ!俺様はちょっくら寝っからな!≫と言って岩肌の上で横になった。でかい図体をしているくせに器用な真似ができることだ。


≪師匠!≫
≪ん?なんだ≫
≪お近くに寄ってもよろしいですか!≫
≪おう、いいぞ。だがあんま近寄りすぎて俺の腰パーツをまた尻で踏ん付けんなよ、お嬢ちゃん?≫
≪も、もうあんな失態は侵しませんてば!何百年前の話をまた蒸し返すつもりなんです!?≫
≪はは!≫



 まあ、俺は俺で お嬢ちゃんがいるから何にも退屈じゃあないんだがな、これが。