スペースブリッジ計画出立時に見たナマエの事を思い出す。
まだ幼さの残る顔一杯に涙を溜め、「待ってる」と言ってくれたあの子は 今、
車工場の責任者であるスタントン殿は今は不在で、コビーの姿も見えない
恐らく留守を任されているのであろうオートボルトと、ナマエの姿がそこにあった
積まれていた機材に腰掛け、忙しなく荷物運びをしているオートボルトを見ている
最後の時から地球の時間にして数年は経ったであろう
かつての部下が地球人と上手く行っていることは素直に嬉しい
だがそれよりも、だ
ナマエの成長ぶりには目を見張ってしまう
幼さの残っていた顔は姿を消し、大人とも子どもとも取れない中間地点の女性らしさが窺える。身長も少し伸びただろうか、髪も昔と比べて幾分長い
何よりも、とても美人だ
少なくともライブコンボイの目には彼女はそう映っている
「……ライブコンボイ、いつ頃になるのかなぁ…」
≪…帰還の話か?≫
「うん。ギャラクシーコンボイから連絡あったんでしょ?何て言ってた?」
≪計画は佳境に入った、ってな≫
「思ったよりも早かったね」
≪誰かさんが人一倍頑張ってたらしいからな?≫
「だれ?」
≪…さぁ、誰だろうか≫
荷物を抱えたままのオートボルトが、意味深に此方へと視線を投げかけた。ナマエはそれには気付かない
此方へ、と言うのは、物陰に隠れ工場にいる2人の姿を窺っていたライブコンボイのことだ
一応周りの目を気にしてビークルモードではいるが、かつて地球で活動していた時にもおおっぴらにロボットモードで居る事の方が多かったライブコンボイは「バレバレだよ」等と言う事には気付けない
話題に上がっていたスペースブリッジ計画が佳境に入ったと言う話だが、実を言うとそれはもうすでに完成間近であった
地球と宇宙の時間の流れは異なる。ギャラクシーコンボイから通信があったとオートボルトが言っていたが、その通信も三月前の話だろう
「…はぁ…ライブコンボイ……」
≪最近多いな。恋しいフラストレーションが爆発したのか?≫
「うーん…そうなのかも…会いたいなー」
ナマエ…!!とライブコンボイは1人でガタガタと悶える。会いたいとか、かわいい!僕の嫁はすごくかわいい!!と、救助用ヘリが1人でガタガタしてる光景は滑稽極まりなく、見ていられなかったのでオートボルトも目を逸らす
先ほどから分かっていることだが、ライブコンボイは地球に帰還していた。勿論与えられていた任務の全てを終わらせて
地球に、ナマエの許に帰りたい一心で、計画に参加していた仲間達も目を疑うほどライブコンボイは計画に打ち込んでいた
航空系トランスフォーマーであるライブコンボイは他のコンボイ達より動き回れ勝手がいいと仕事を頼まれることは多かったがそれらも全てこなした。何度も言うがそれも全て帰りたい一心で
そして帰ってきたのだ。先日、無事に地球のこの場所へと
本当はすぐにナマエの前に飛び出して行きたかった
しかしある1つの考えがライブコンボイを引き止める
それは、ナマエがまだ己のことを覚えているのかどうかと言うことだ
臆病だと言われればそれまでだし、ナマエは約束を覚えているのかとか色々考えている内に日が経ってしまった
その間にコビーとオートボルトと、スタントンにはバレてしまった
お陰でさっきからオートボルトからの通信がひっきりなしだ
―早く出て来い ――いつまでそうやってるんだ ――ナマエが可哀想だ
もう分かっている。ナマエは己のことを忘れていない。それどころか会いたいと、言ってくれている
後は自分がナマエの前に姿を現すだけだ
何の為にギャラクシーコンボイに頼んで一人だけ先に地球へと帰還させてもらったか分からないし、部下に嘘を吐かしていることも胸が痛い
≪…誰か後押しをくれないか…≫
ライブコンボイが呟いたこの言葉を耳にしたオートボルトはハァ、と排気を吐き出し、
しょぼんと膝を抱えるナマエを見据えた
≪…ナマエ、俺は少し出掛ける。留守番頼んだぞ≫
「え?えぇ、いいけど…どこ行くの?」
≪ちょっと野暮用だ≫
「ふーん…」
いってらっしゃい、と少し元気なく声を掛けてくれるナマエ
待ってろよ、すぐにお前の王子様を連れて来てやるからな、と意気込み、
オートボルトはその王子様の許へと駆け込んだ