「今日も今日とて凄い量…」
いつものように腕に詰まれた山のような洗濯物たち。しかし私だって成長している。この世界に来て早幾年。身長だって伸びた。体力だって付いた。少しだが運動も出来る。武器の扱いも習った。前までの只の女子高生ではない
腕に力を入れて、洗濯物をしっかりと抱えなおす。擦れ違った隊員の皆から「俺たちの手助けは要らないのかー?」や「大佐呼んでくるかー?」と茶化されるが、「結構です!」と一喝して洗濯場を目指す。私が成長したことによってレノックスさんが手を貸す場面は減った。その事をレノックスさんは寂しく思っているらしい。まるでお父さんみたい、と思ったけど口に出したらまた拗ね出すだろう
色んなことがあった
オートボットの仲間達の死、ディセプティコンの新しい敵、NESTの新体制
知らない、と言うことは当たり前なのに、もし私がこの未来も知っていたら、多くのオートボットや隊員の皆は命を落とすことはなかったかもしれないのに、と考えると気分は落ちる
「大丈夫だ ナマエが気に病む事なんて何一つとしてないんだ」
そう言って励ましてくれたのは、勿論 大切なあの人だ
≪ナマエ!重そうだな、手伝うか?≫
「あ、ありがとうサイドスワイプ。でも平気」
≪そうか?≫
滑るように近づいて来たのはサイドスワイプ。最初会った時と印象が随分変わったトランスフォーマーの1人でもある。クールな任務一筋なキャラかと思ったけど、意外に仲間思いでいい人だ。時たまこうして手伝うかと声を掛けてくれる
≪まあでも遠慮するな。何か今は手伝いしたい気分なんだ≫
「そうなの?ははっ じゃあ、ちょっと持ってもらおうかな?」
≪ああ、任せろ≫
二人で無事に全ての洗濯物を運び終え、ボタンを押して後は機械に任せる
固まった筋をうーん、と伸ばしていると今まで付き合ってくれていたサイドスワイプのボディが改めて視界に入ってきた
「…あれ?サイドスワイプ、オープンカーにフォルムチェンジしたの?」
≪おぉ!漸く気がついたかナマエ≫
「ずっと洗濯物と前だけ見てたから… 格好いいね!洗車もしたの?ピカピカだよ?」
≪そうだ。速さと機能性を追及して、余分なパーツを減らしたんだ。 どうだ?見違えたか?≫
「うん!格好いいね!!」
いつも思う。サイドスワイプのトイが発売されてたら、絶対買うのに!いや絶対発売されているはずだ。発売しないとおかしい。脚部のタイヤ部分の処理は、どうやったんだろう。スタンド付きにしてる?いやきっと踵やつま先を駆使して自立型になっているはずだね…!考えるだけでテンションは上がり、思わずキラキラした目でサイドスワイプを見てしまった
「……なにを二人で見つめあってるんだ?」
「あっ、レノックスさん!」
背後から肩を叩かれ振り返ると口元を引きつらせたレノックスさんが立っていた
軍服の正装姿だ。会議の帰りだろう。お疲れ様です、と声を掛ける前にサイドスワイプがレノックスさんのさっきの言葉を訂正する
≪別に見詰め合っちゃいない。ナマエが俺の新しい姿に見惚れてただけだ≫
「そ、そうなのかナマエ!?」
「えっ!?ま、まぁ…」
間違ったことは言ってないかな?サイドスワイプのトイに想いを馳せてました、なんて言えるわけない。
「…いやにキラキラした目でサイドスワイプを見てたようだが?」
「サイドスワイプの新しいフォルムに、ちょっと心奪われてました〜」
「やっぱりそうだったんだな…!」
「あ、あれ?」
嘘を吐いてもレノックスさんは直ぐに見破ってしまうから正直に言ったら凹んでしまった。周りに居た隊員の皆が「負けないでください大佐!」「若さなんて!」と励まし?の声を掛けている
「ナマエは…た、確か向こうの世界でも人間じゃなくロボットにばかり心を奪われてた、と言っていたがこれは…」
「…本当、ですね?」
「な!!?」
「大佐ー!!」
「レ、レノックスさん!?」
≪おいどうしたレノックス大佐!≫
「しっかりしてくださいレノックスさん!」
ダメだ。完全に気を失ってる
本当に、レノックスさんを私の存在で救えているのかな?
何だかレノックスさんの新しい部分ばかりが目に付くよ