「まぁって〜スコ〜!」
≪キュー!≫
砂漠のど真ん中で、一人と一匹は楽しそうに追いかけっこをしている。一匹―スコルポノックは、一人―ナマエに尾を差し出しては引っ込め、猫じゃらしの要領でナマエをからかって遊び、それを追いかけて遊ぶナマエ達はとても楽しそうだ。
しかしただ一人、ブラックアウトだけは風に晒され切り立った岩に、
某ボクシング漫画の燃え尽きた主人公のようなポーズでズーンと座り込み、憂鬱に浸っていた。
拾った人間の女児、 ナマエの存在を仲間のディセプティコン達から隠し通せる訳もなく、
どこか様子のおかしいブラックアウトを目敏く指摘したスタースクリームによってナマエの存在が全軍にバレてしまったのだ
勿論大目玉だ。
「捨てて来い」「殺せ」「必要の無いものを手元に置くものではない」
多種多様の罵詈雑言を受けながら、何故俺がこんな仕打ちを受けなくてはならないんだ。そもそも元はと言えばスコルポノックの奴が…いや、だからと言ってスコルポノックにこの責め苦を受けさせるわけには…と考えて結局全てを自分が甘んじて受けている時点で何かがおかしいとブラックアウトは勘付くべきだったのだ
結局、だ
各々の意見が極論に達し、いっそ「人質扱い」として保護下に置くことになってしまった。腑に落ちない
ハァ、とブラックアウトが排気を吐いて俯くと、いつの間にかナマエが足元に擦り寄って来ていた。少し半ベソ掻いている
≪ど、どうした≫
「うぅ〜…」
愚図りだすか、と慌ててナマエの身体を片手で救い抱く。
ナマエはまだ人間年齢で3〜5歳児未満とのことだったから、こうして時たま癇癪的に泣き出すことがある。その都度抱き上げあやさなければならないのが一番面倒だった
「おにぃちゃ…スコがぁ〜…」
≪ああ、スコルポノックがどうかしたか?≫
「…いつまでおいかけてもおいつけなぃ〜…」
≪…ああ…≫
足元で不安げに上を見上げていたスコルポノックに目線を配る。
― スコルポノック、命令だ 1回ナマエに捕まってやれ
― 了解しました
命令を理解したスコルポノックは了解のサインに両腕を挙げる。
それに頷き返して、ブラックアウトはナマエを地面に柔らかく降ろした
≪ほらナマエ もう一度やってみろ。今度は捕まるかもしれないぞ?≫
「うぅ〜…ほんと…?」
≪ああ ほら、行って来い。スコルポノックが待ち構えてるぞ≫
「…わかったぁ」
トテトテと小走りにスコルポノックの許へ駆けて行き、一度だけチラと不安げに振り返ってきたナマエに大きく頷き返し、その小さな背中を見送る。
追いかけっこを再開したナマエとスコルポノック、
宣言どおりにスコルポノックは先ほどよりも足を遅くし、ナマエに捕まえられてやっていた。
「おにぃちゃーん!スコつかまえたよー!」ブンブン手を振って満面の笑みを此方へ向けるナマエに、緩やかに手を振り返す。
そこでハタと気付く
≪俺は…一体、何をやっているんだ…?≫
もっと早めに気付いておくべきことだったのだが、
ナマエの笑顔に癒されている時点で、
スコルポノックと楽しそうに戯れているナマエの姿を見て癒されている時点で、
ブラックアウトがそれを自覚した時点ではもう既に手遅れであった