ブラックアウトは手の中の存在にひたすら困惑を繰り返した。ブレインを遡っても、未だこんな状況に陥ったことはなかった。なので対処方法が見つからない。同じように解決方法も分からない。果たしてどうすればいいのか。そもそもこうなった現状を連れてきたスコルポノックはエネルギー切れでダウンしている。
≪……何故だ≫
手の中の存在…人間の子どもは、大きな目でブラックアウトを見上げている。その目は明らかに好奇心が含まれており、ブラックアウトはその目力に圧倒されそうになるのを何とか堪える。握りつぶしてしまうわけにはいかない。
≪…………≫
万事休すだ。応援を頼むしかない
≪………≫
しかし、この状況を打破できるような仲間には覚えがいない。そう考えて話はまた振り出しに戻る。やむを得ず、自分の分のエネルギーを少量スコルポノックに分け、スコルポノックの意識を目覚めさせる。
≪…キュー≫
≪スコルポノック、どうしてこんな人間を拾ってきた。元の場所に返して来い≫
≪キュー≫
≪……何?≫
何でもこの人間に借りがあるらしい。そこまでは分かった。しかし、その借りとはなんだ、と問うても上手く聞き取れなかった。
≪…どうすれば良いんだ…≫
もうそろそろ仲間達から合流しろとの合図が来るだろう。そんな場所にこの人間を抱えていこうものなら嘲笑は免れないし、必ずこの人間は殺されるのは目に見えている。
≪スコルポノック、やはり元の場所に戻してこ…≫
「……お兄ちゃん、だぁれ?」
≪…………、!?≫
何処から聞こえた音声かと思ったら、手の中のこの存在だった。声を発さないから喋れないのかと思っていたら、舌ったらずだがちゃんと音声として認識出来る声だった。
「……サソリさん、サソリさん…」
≪…蠍さん?≫
スコルポノックのことか?と、一旦人間を地面に下ろしてスコルポノックの前に出す。
スコルポノックは嬉しそうに尾を振った。人間の方も楽しそうだ。一人と一匹の様子に、心が凪いだ。・・・・何故俺が和やかにならなければならないんだ!!
「うぅー…サソリさん、お兄ちゃん…」
≪………≫
先ほども言っていて聞き逃していたが、まさかお兄ちゃんという単語はもしかして…
「お兄ちゃん、だっこ」
・・・・・俺のことか!?
すぐにワールドワイドウェブを繋ぐ。そして高速で"お兄ちゃん"という単語の意味を調べる。兄、兄弟の長男を指す言葉、年上のものに対して使う愛称のようなもの、
なんだと!?
≪お、おいお前、俺はお前の兄などでは…≫
「……ナマエ、ねむぃ…」
≪……ナマエ?お前の名か?≫
代わりにスコルポノックが嬉しそうな泣き声を上げる。そうだ!と言っているらしい、いつの間にそんなものを知ったんだ
「抱っこぉ…お兄ちゃん…」
≪……しょうがない≫
自分でも何がしょうがないんだ、とツッコミを入れたくなった
しかし、この状況は仕方が無い、としか言いようがないではないか
―≪ブラックアウト、こちらスタースクリームだ。何処にいる≫
―≪…!?す、スタースクリーム!?≫
―≪…なんだ?何をそんな動揺しているんだ≫
―≪い、いや、なんでもない。何だ≫
―≪何だ、だと?貴様、落ち合う予定を頭に入れてなかったのか?≫
そうだった
―≪わ、悪いがスタースクリーム。俺とスコルポノックは後で落ち合う≫
―≪なに!?≫
―≪じゃあな≫
―≪オ、≫
いきなりこんなことを言い出せば、スタースクリームは怪しんで此方へとやってくるだろう。それまでにこの存在をどうにかせねば
≪おい≫
「………」
≪……?何故返事をしない≫
「……」
≪死んだか?≫
「……すぅ」
≪……≫
寝ている。何故だ、何故俺の手の中で寝られるんだこいつは
ブラックアウトは困りに困ったが、有効な手段も見つからないまま、どうしようもないとスコルポノックに嘆いた。