点と点を結ぶ、そんな感覚で
幼児主
子どもの遊び場はどこにだって設営可能だ。例えそれが大人の軍人達が行き交う軍用基地内だったとしても。恐くておっかない監査官が居ようとも。子どもの無邪気さは時として何よりも強いバリアとなってその場にある規制、規則、規律、その他色々なものの"規"を無いものに出来るのだ。
ナマエと言う可愛いかわいい幼子もその無効化出来る存在の一人だ。今年で3歳になったらしい彼女はレノックス司令官の妹の子どもであり、昨日より数日間慰安旅行に出かけた娘夫婦に代わって面倒を看ていたのだが、妻であるサラ・レノックスも偶然により昨日から女友達と久しぶりのバカンスに出かけたのだ。夫を置き、娘を連れ。夫は傷心していたが、可愛いかわいい姪と言う存在に心癒され、数日だけ託児所に預ける訳にもいかず、やむを得ないと言う理由に因って特別に軍内へ連れて来たのだ。
軍議に参加していたので、女性隊員に任せていたはずだったのだが…
その可愛い姪は
「おぷちます?」
≪オプティマス・プライムだ≫
「おぷちますぷりゃいむ?」
≪オプティマス、 プライム、だ≫
オートボットの司令官と戯れていた
恐ろしいほどの身長差だ。オプティマスが片膝ついてしゃがんでいるが、それでも大きい差。どうしてそんな状況になったのか
確か姪には女性隊員が仕事で離れてしまっても一人で遊べるように、と遊び道具を渡していたはずだ。あれは何処に行って……
≪こら≫
「おぷちますー ナマエはね、ナマエってゆーのー」
≪ナマエ…記憶した。ところで、こら≫
オプティマスが懸命にナマエを叱っている。自分が使える限りなく優しい叱り言葉でナマエを止めている。何故かと言うと、ナマエの手に持っているものが原因だった
ナマエの手には遊び道具として渡していたお絵かきセットの一つの油性マジックペンだ。
すでにそれで遊んだ後なのか、ナマエの手にもほっぺたにも落ちないペン跡が着いている
そのペンを構えて、ナマエはオプティマスの足元にしゃがみ込んでいる。
「ナマエー、ナマエー」
言葉の後ろには音符マークがつきそうな程ご機嫌な声だ
「おぷちますー」
≪ナマエ……何を…≫
「えへへー」
じゃーん! ナマエがそう言って指差したのは、オプティマスの金属の足元(人間で言うならば踝辺り)に黒の油性ペンででかでかと書かれたナマエの名前と『おぷちます』の文字
≪………≫
オプティマスが困惑している。未だ嘗て無かった状況に対応しうる為の情報が不足しているのだ。しかし困ってはいないようだ。分からないだけらしい
ナマエが満面の笑顔を浮かべてオプティマスをようよう見上げる
「ナマエのなまえ、わすれないでねっ」
≪……ハハ、…ああ。了解した、"ナマエ"≫
「おぷちますぷりゃいむー」
≪…オプティマス、プライムだ≫
…あのオプティマスが、笑っている。
固い金属の口で表情豊かに笑っている
小さな手を後ろで組んで笑うナマエに跪くようにしているオプティマスは、
何処か中世の騎士と幼い姫君のようだ。可愛いかわいい姪を見てオジ馬鹿はそう考える
ナイトのようなオプティマスの足の、青と赤と金属色の其処に黒い歪な文字が目立つ。
『ナマエ』と書かれたそれにオプティマスは――意識してなのか無意識なのか――手を寄越す。そしてそっと撫ぜた。温かな物に触れるように
「ねぇねぇおぷちますー、今かりゃナマエとあそぼー?」
≪……ああ構わない。何をすれば良い≫
いやいやいやいや、構わなくはないだろうオプティマス。問題ありまくりだ
お前は今から上の連中に報告と探査の任務が…とオプティマスに物申せる人間は居ない。
「おままごとっ」
≪"おままごと"?≫
オプティマスの目にデータベースが次々と流れ込む。人間には及ばないスピードでネットで意味を調べているのかもしれない。解析が終了したのか、オプティマスから小さく―キン!と言う音がした
≪おままごと、了解した。私は何の役をやればいいのだ?≫
対応が早すぎるぞオプティマス
「おぷちますは、だんなさんねー!ナマエはおよめさーん!」
≪君のような年頃の女児と結ばれてしまうのに問題はないのか?≫
「二人のあいだに愛があればいーの!」
≪愛?≫
「うんっ ナマエね、おぷちますのこと好きになっちゃった」
≪…そうか、ありがとう。光栄だナマエ≫
「じゃあおぷちますはだんなさんね!」
≪ああ。任せてくれ≫
・・・・オプティマス、
オプティマスに可愛い姪を取られてしまったレノックスはそれから数日後、
元の家に帰らなければいけなくなってしまって駄々を捏ねたナマエを宥めるものの全く聞き入れてくれず、オプティマスと離れたくない!と我侭を言うナマエの許へわざわざオプティマスを呼び寄せ、すっかり通じ合ってしまった二人は互いに「うぅ〜…オプティマス…はなれたくないよぉ…」≪泣かないでくれナマエ…君に泣かれると私も哀しい。君と離れてしまうことは、私にとっても何物にも変えがたい苦痛だ≫オプティマスの言う言葉の半分も理解出来ないであろうにナマエは喜び余計に双方の別れを辛くさせてしまったらしく、「もうウィルおじちゃんきらい!」と言われてハートブレイクした