≪ナマエ!!≫
ニトロコンボイの悲痛な叫び声が周囲に響き渡る
それは捕らえられているナマエの耳にもしっかりと届いた。しかし、締め付ける指の力が強くなったことにより、ナマエは「あ゛…っ!」と苦悶の表情を浮かべ、飛びそうになる意識を必死で繋いでいた
≪返して欲しいか? ―ニトロコンボイ≫
「ニト……ロ…、」
≪ダークニトロ…貴様ァ…!!≫
ニトロコンボイが憎悪に満ちた表情で睨む視線の先に居るのは、自分と瓜二つの闇の存在。赤く光る目が、その存在がデストロン戦士であることを強く主張している
ダークニトロ――…ダークニトロコンボイの突然の出現は、ダークライガージャックが生まれたことにより理論化されていた
ダークニトロコンボイは、ニトロコンボイの地位を執拗に狙い、引き摺り落とそうとしていた
自分と同じ姿でデストロンに付くダークニトロに、オリジナルは怒りで震える腕を上げマッハショットを構える
≪ナマエを放せぇ…っ!≫
≪撃てば良い 俺諸共この女を殺せば良いだろう?≫
≪出来るものかそんなことっ!!≫
≪ならば返せないな≫
そう言って、ダークニトロはナマエの身体を押し込んでレーシングカーにトランスフォームする
噴煙を噴出しながらニトロコンボイに背を向け走り出す
≪!待て!!≫
≪追いかけてくれば、この女は殺すぞ?≫
≪なっ…!≫
フォースチップをイグニッションしたダークニトロは、マッハショットをニトロコンボイに向けて放つ
その攻撃に目を眩ませている間に、走り去ったデストロンの姿は何処にも見えなくなっていた
≪ナマエ……!!≫
二人で、久しぶりに地球を探索していたのに、まさかこんなことになるなんて、
ニトロコンボイは顔を歪め嫌悪に陥った。だがすぐに思い直し、ナマエを取り戻すために走り出した
≪おい、起きろ≫
いつの間にか意識を失っていたナマエは、頭上から降りかかる言葉に薄っすらと目蓋を持ち上げる
自分を見下ろしていたのは、ニトロコンボイと共にドライブをしていた時に襲撃してきたニトロコンボイと瓜二つの……
「……あなたは、」
≪俺はダークニトロコンボイ≫
「…ダーク…」
何時かのダークライガージャックの存在と同じ存在か、とナマエは悟る
だとするのなら、コレほどまでに己の自我を持ち合わせているのは珍しい
「貴方…何が目的でこんなこと…」
≪俺はオリジナルのアイツを倒す そして俺が惑星スピーディアを真に支配するのだ≫
アイツを倒す、その為にお前の存在が必要不可欠なんだ、と口元を歪めたダークニトロコンボイにナマエは戦慄した
≪ああ言ったが、きっとあいつは俺を追ってくる。お前を助け出す為にな≫
「……」
≪俺がアイツに変わってオリジナルになるんだ≫
不敵に光った赤い瞳に射竦められそうになりながらもナマエは必死に呼吸を整えて制止の声を掛ける
「や、やめてください…!ニトロコンボイを傷つけないで!」
≪人間、そんなこと言える立場だと思っているのか?≫
「……なに、」
≪黙っていろ。死にたくなければな≫
「…黙りません!」
≪…何だと?≫
睨みつけられ、大きな指が首元を締め付けようと狙ってくる
それでも怯んではいられない
「ニトロコンボイは、私の大切な存在です!オリジナルだか、コピーだか知りませんが、ニトロコンボイと同じ姿の貴方でも、彼を傷つけるのは許しません!」
≪女ァ…!≫
ダークニトロの指がナマエの細い首に回される
キリキリと力を入れられ、呼吸が循環されずにナマエは口を開け喘いだ
「ぅっ……、!」
≪…煩わしい存在だ 何故、お前のような存在をアイツは手元に置くのか、理解出来んな≫
≪ お前には一生分からないさ、ダークニトロ!! ≫
≪!?≫
横っ腹を蹴り飛ばされた衝撃で、手の中のナマエが離れ宙に浮く。
「きゃっ…!」その身体をしかと受け止めたのは、勿論
「…―ニトロコンボイ!!」
≪無事か、ナマエ≫
マッハショットをダークニトロに向けて撃ち続けながらも視線をナマエに寄越し無事を確認し安堵する
銃弾を避けながら、ダークニトロは憎しみに満ちた赤い眼でニトロコンボイを睨む
≪ニトロコンボイ…!≫
≪ダークニトロ、お前も俺なら、ナマエと言う存在は大切に扱え≫
≪ほざけ!≫
ダークニトロが構えたマッハショットは、撃ち出されるそれより前にニトロコンボイのマッハショットによって吹き飛ばされる
≪ぐっ…!≫
≪退け 仲間の救援を呼んだ。もう直、此処にはサイバトロン戦士達が駆けつけてくれる≫
≪くそっ…!≫
苦々しげに吐き捨てたダークニトロの視界に、ニトロコンボイに抱きかかえられているナマエの姿が映る。アイセンサーが少し揺れた
「………、」
≪…………貴様は、≫
≪…む?≫
≪幸せ者だったんだな、オリジナル≫
トランスフォームして退散したダークニトロをニトロコンボイは不思議そうに眺めた
≪……どういう意味だったんだ?≫
「…さぁ…」
ナマエはダークニトロの赤い憎悪に満ちた光を放つ眼で思い出す
そして視線を上に上げ、ニトロコンボイの穏やかな光を放つ目を見る
「……私は、こっちの色の方が好きだね」
≪……?ボディカラーのことか?≫
「違います、目だよ」
≪…目?≫
自分のアイパーツを触って首を傾げたニトロコンボイに笑みを向ける
だが、ナマエの心の中から、ダークニトロコンボイの存在は消えることはなかった
去り際のダークニトロの視線が持った意味、それは、後日再会した時に本人の口から語られることになる