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ひだまりの中の恋愛劇




ウィングセイバーは困り果てていた




己の足元に佇んでいる小さな人間の少女の大きく円らな瞳が興味津々、と言ったように己から眼を放さないまま何十分とそうしているから


少女の口から時折聞こえる「は〜…」や「かっこいぃ…」と言った言葉から察するに
悪くはない感情で見つめられているようだが、
人間との付き合いがまだ浅いウィングセイバーには対処しきれない問題だし、
周りに助けを求めようにも、皆一様にしてニコニコと視線を送るだけ送っといてさっさと立ち去るのは、
困り果てているウィングセイバーを見ているのが楽しい、と言ったことなのだろうか



「………あのぉ」

≪…―!?は、はい!自分に何か御用でありますか!≫



遠慮がちに訊ねられた少女の言葉に、声帯モジュールが裏返ったような音を出した
緊張感がそのまま声に出てしまったようだ。戦士としては些か情けなくもある



「お手てに乗せてもらってもいいですかぁ…?」


≪…え?お、お手て?自分ので…すか?≫

「うんっ!」

≪あ…、そ、それでしたらお安い御用です!≫



膝を折って屈み込み、了承の返事を受けたことによって眼の輝きを増している少女に向かって両手を差し出す

少女は遠慮がちに、だが元気よくウィングセイバーの両手の真ん中に飛び乗り、
うわ〜…!と感嘆の息を漏らした

立った方がいいのかな、と思い、ウィングセイバーはゆっくりと立ち上がる。少女を落とさぬよう細心の注意を払って


高くなって行く視点に、少女は喜ぶばかりだった




「うわぁ、凄いすごい!たかーい!」

≪気に入って頂けましたか≫

「うんっ ありがとう、ウィングセイバーさん」

≪あっ…、い、いいえっ!≫



向けられた明るい笑顔にスパークが熱くなる
顔に感情が出にくい構造になっていて助かった


暫くの間、そうしてウィングセイバーの手の上で高い景色を楽しんでいた少女に
駆け寄ってくる一人の人間の姿が見え、ウィングセイバーはおや?と思う
アレは地球の少年、キッカーの妹さんであったような…




「ナマエ!こんな所にいたの?ウィングセイバーも!」

「あっ、サリーのおねぇちゃん!」

≪こんにちは、サリー殿≫

「こんにちは!  ナマエ、ラッドが探してたよ!そろそろ家に帰りなさい、って」

「…はーい…」



少女――話から察するに、ナマエと呼ばれた彼女は、途端に顔を暗くし、チラとウィングセイバーに視線を送る。
降ろして下さい、と言う意を汲んだウィングセイバーはゆっくりとナマエを地上に降ろした

降りてきたナマエの小さな身体をサリーが受け止める



「さっ、行くよ」

「うん…ウィングセイバーさん、ありがとお」

≪い、いいえ!此方こそ…!≫

「…また来ますね!」



そう言い残して、ナマエはサリーと手を繋ぎながら歩いて行ってしまった

後から聞いた話だったが、ナマエはラッドの仕事仲間の一人の連れ子だそうで
こうして時折、父親に連れられこの施設を訪れるのだとか


ウィングセイバーは、初めて触れ合った人間の少女、ナマエの温かい笑顔を思い浮かべては、何度も何度もスパークを熱くし困っていたと言う