データを纏め終え上に提出した頃には、外はすっかり暗くなり基地の照明が明々と光っていた
眼鏡をケースに戻し、疲れ眼になっている両目を指で軽く揉む。一緒に溜息まで出てきた
周りの同僚達が次々に部屋を出て行くのを見送りながら、完成したデータをもう一度再確認しておく。うん、大丈夫だ。これで今日の分の仕事は無事に終わらせれた
まだ残って作業をする先輩オペレーター達に断って退出する
外に出ると、寒い風が吹き込んできて身震いした。
第一倉庫の方に目をやれば、オートボットの皆と戦闘員の皆さんが何やら楽しそうに談笑しているのが見える。その輪の中に、オプティマスも居て、意識しない内に笑みが零れてしまった
「…いいなぁ」
「――お? よぉナマエ!そっちも仕事終わりか?」
「!? あ、は、はい!」
「お疲れ!」
「お、お疲れ様!」
先述の輪の中にいたコールズが私の姿を見つけて声をかけてくれた
声をかけてくれたのはいいけれど、コールズ以外その他大勢の人やオートボット達の視線までもを一身に浴びてしまい、恐縮する。その視線の1つにオプティマスからのも含まれていて、ああ、あ、はずかしい、
≪お疲れ様、ナマエ≫
「…… えっ!?」
≪?どうかしたのか≫
「ぇっ、あ、い、いえ!おつかれさまで、す!オ……オプティマス!」
耳に飛び込んできた声を把握できなくて、反応が遅れてしまった
オ、オプティマスに、声をかけられた!!うそ、何これうれしい
悦に浸りそうになっていると、そんな私を現実に引き戻すようにコールズが口を開いた
「ナマエが丁度いいところに来てくれたからさ、訊いてみろよお前」
「ん?あーそれもそうだな」
「な、なに?私に答えられること?」
「ああ」
コールズの仲間の1人で、私も何度か話をしたことのある人物だ。言い出しにくいのか、あーと言葉を濁していた彼だったが、整理がついたのかゴホンとわざとらしく咳払いをして話を切り出した
「ナマエと同じチームにさ、―――って言う子がいるだろ」
彼に告げられた名前は、先ほど休憩室で話した彼女のものだ
いるわ、と返事をすると、彼はこう続ける
「あの子って、今フリーなのか?」
「え……」
「女同士なんだから、そう言う話題とか出てきたりしないか?」
「え、ええ……」
この場合、私は何て答えたらいいのだろう
恐らく彼女に今恋人の存在はいないはず。だって彼女には好きな人が――
無意識のうちに、
傍らで他の仲間達と一緒に会話を傍観しているオプティマスに目をやってしまった
「恋人は…いない筈だわ」
「!そうか!それが聞けただけでも小躍りしたい気分だ!」
「はえーよバカ。フリーだってことが分かっただけだろ」
笑顔になって本当に踊り出した彼にコールズが肘を入れる
イテテ、と痛がりながらも、彼はまだ嬉しそうだ
「俺、彼女に一目惚れしたんだ。あの子モデルみたいに可愛いだろ?」
「…そうね。彼女可愛いし、スタイルも、いいし」
「そうなんだよなー!出るとこ出てしまるところはしまってるあの身体!」
「違いねぇな!」
やれスタイルが、やれ胸が、と騒ぎ始めた隊員達の輪に入れなくなっていると、
オプティマスと共に傍観していたジャズとサイドスワイプが顔を寄せて話に入って来た
≪スタイルって、そんなに重要なものなのか?≫
「お前達には分からないかもしんないけど、重要だな俺らからすれば!」
≪ふーん?"スタイル"ねぇ…≫
≪"スタイル"と言うのは、お前達が恋人にする時の条件としてそれほど大切か≫
「そうだな!」
…早くこの場から帰りたいな。とてもじゃないけど、入りたくないし耳に入れたくもない会話ばかり
俯いて少し泣きそうになる。
するとコールズが、今まで黙って居たオプティマスに話の矛先を向けた
「オプティマス達はそう言うのを、アーシー達女に求めたりしないのか?」
質問をされたのは私じゃないのに、ドキッとしてしまった
何て質問を、私がいるときにしちゃうのコールズ。せめて私がここに居ないときにしてよ、どうして、ああもう、今日は本当に最悪ないちに…
≪私は容姿や地位で恋人を決めたりはしない≫
「…!」
「そ、そうか」
≪ああ。 すまない、君が望んだような答えではなかったかもしれない≫
「い、いや謝るなよオプティマス」
まぁそうだよな、 ああ。気にした事などないな。とジャズとサイドスワイプが話してる声が耳を通り過ぎて行く。それ程までに、オプティマスの今の言葉は私の胸にじんわりと広がった。直接私に向けて言われた言葉ではないのに、私のコンプレックスと言うか、心配事と言うか、いやそれ以外の心にあった何かを的確に壊してくれたような、そんな感じ
ああ、今私の胸は喜びであふれている
「―――オプティマス!」
≪?どうしたナマエ≫
「 ありがとう!」
キョトン、とアイセンサーを瞬かせたオプティマスに、
私は初めて、ちゃんと顔を上げて笑い返す事が出来た