「こら!待ちなさいフレンジー!!」
≪ナマエノポンコツPCヲハイテクスペックニ改造シテヤロウトシテルダケダロー!≫
「余計なことしなくて良いから!あっ、バリケード!フレンジー捕まえて!」
≪………≫
バタバタと家中を走り回る音、ナマエがフレンジーを追いかける声、フレンジーがナマエをおちょくる声が聞こえたと思ったら、一人と一匹は勢いよく玄関から外へ飛び出してきた。俺が ナマエの家に入ることは出来ないから庭でロボットモードで待機していたところに、ナマエのと思しき黒のノートパソコンを手に持ったフレンジーが俺の方へ駆けてくる。フレンジーの進路を塞ぐ為に立ち塞がってみる
≪ストップだぜフレンジー≫
≪アッ、相棒テメェナマエの味方スンノカヨ!≫
≪そう言うアレじゃねぇ≫
フレンジーを左腕でがっしりホールドし、右手でパソコンを奪い取る。
息も絶え絶えになったナマエが漸く追いついたようだ
「あっ、ありがとバリケード……」
≪テメェも取られねぇように金庫ん中にでも入れとけ≫
俺はナマエにパソコンを返してやった。
「それじゃ不便じゃない… まったく、本当にフレンジーは……」
ナマエはブツブツとフレンジーへの不満を呟きながら家の中に入って行った。おそらくパソコンを元あった場所に置きに行こうとしているのだろう
ナマエが家の中に入って行ったのを確認して、
腕の中にいたフレンジーを解放してやる。相棒はまだぶつくさ文句を言っていた。
≪アーア、ナマエノ為ヲ思ッテヤロウトシテタノニ!便利ニナルホウガ良イヨナ相棒!≫
≪あんまりハイテクになったって、ナマエの技量じゃ使いこなせねぇだろ≫
≪ア、ナルホドナ≫
「こらそこ二人!聞こえてんのよ!」
二階のナマエの部屋にあるバルコニーから身を乗り出して此方に向かって怒ったポーズを取っている。窓を開けていたから聞こえたらしい。フレンジーはそっぽを向いた
≪ナマエノ阿呆サヲ失念シテタゼ≫
「なんですって!」
≪テメェ等うるせぇ 落ち着け。 ナマエもコッチ来いよ≫
「来いって…」
≪ん≫
「……」
腰を上げて立ち上がり、掌を上に、ナマエに差し出す。
ナマエはまだ不満そうだったが、手摺から身を乗り出し、掌中に収まった。
右手にいるナマエと、左手にいるフレンジーはやっぱりムムム…と睨みあっていた。最近コイツ等、仲が良すぎる気がする。
≪……腹立つ≫
≪ア?何ニ?≫
≪…オメェ等にだ≫
「え、私も!?フレンジーだけでしょ!」
≪ナンダトコラ!≫
途端に喧しく騒ぎ始めた二人に苛々したので、両手を上下に振って二人を揺らす
ナマエは目を回し、静止の声をかけ、フレンジーはヤメロオオォォォ…と声を上げた
気が済んだので止めてやる。
「め、目が…」
≪……餓鬼ッポイゼ、オマエ≫
≪…煩い!≫
やはりドローンであるフレンジーにはオレの感情の変化と起伏が分かったらしく、ウンザリしたような目で見てきやがった。ウゼェよ 見んな
一体いつからこうなってしまったのか。戦いに敗れ、破損した身体のままフレンジーを救出しに動き回り、漸くドローンを回収し終えハイウェイを降りて人気のまばらな住宅街に逃げ込んで、そこで力尽きて ああ終わりか と諦めていたその時に会ったのがナマエだった。怖がりながらも俺たちに近付き、修復の手伝いをした妙な女。力を取り戻したその時は、口封じに殺すと、決めていた筈なのだが、
出会って一年、未だに手を出せずにいる理由を 俺達は知らないフリをする
「って言うか、どうしていきなりPC改造するなんて言い出したわけ?」
ナマエはまだご立腹な様子で、フレンジーを睨みつけた
相棒はヤレヤレ、と人間くさい態度を取る。ナマエの行動を真似たのかもしれない
≪日頃ノ感謝ノ気持チヲシメソウト思ッテナ!善意アル行動ダ!≫
「…もっと別の方法で示してよ……」
呆れている口調だったが、ナマエは今日初めて笑顔を見せた。
フレンジーはそのナマエの笑顔に満足したのか、フン!と言ってまたそっぽを向く。
それよりも、相棒 お前は今なんつった?
≪感謝の気持ち?ナマエにか?≫
≪…マッ、マァ感ジテネェワケジャネェカラナ≫
「…フレンジー、貴方ちょっと見直したわ」
≪ナニ!?≫
感謝の気持ち…とは 何だ?すぐにブレインサーキットを展開し、ワールドワイドウェブを開いて検索をかける。見たこともないような単語が一斉に流れ出す。"大切な人に" "思いをこめて" "疎かにしてはいけない一番大切な気持ち" 理解出来ん
ナマエに聞こえないようにするために、フレンジーに通信を送る
― お前の言っている意味が分んねぇ
― …ソレニハ大前提トシテ、相棒ガナマエニ感謝感ジテネート駄目ダナ
― ……………感じてねぇこともない
― ソレナラ簡単ダ ナンデモ"アリガトウ"ッテ言エバ人間ニハ伝ワルラシイゼー
― …それはナマエにも伝わるのか?
― ナマエガ本当ニ人間ナラ伝ワンジャネ?
通信を遮断する。右手を顔の位置にまで上げて、ナマエと目線を合わせる。
これは無意識下の行動だった
「え?な、なにバリケード まだ怒ってるの!?」
≪ナマエ≫
「はっ、はい」
≪"ありがとう"≫
「は……」
ナマエがパチクリと目を瞬かせた。フレンジーがそのナマエの表情を見てケラケラ笑っている。
じわじわとナマエの顔が赤くなっていくのが見えた。その顔の赤みは、怒りからか?と問えば違う!と否定される。じゃあ何だ
「…こ、これは…」
≪"照レ"ッテ奴ダゼ相棒 覚エトケヨ≫
「!フレンジー!!」
≪ヒー怖ッ!≫
テレ? ああ、照れ。
照れてんのか。俺の"ありがとう"に 案外可愛げのある奴だな
≪もっと言ってやろうか?≫
「たっ、たまにでいいよ!≫
≪チッ たまにってどれくらいだ。月何回のペースでだ、1日ごとか 時間単位か≫
「バ、バリケードが心の底から言いたいときだけでいいってば!」
なに?…それなら
≪…毎日言っても、たんねーよ≫
「え?何か言った?バリケード」
≪ケケッ≫
ボリュームを最大限に絞って出した言葉は、ナマエに聞こえるわけもなく、フレンジーにしか伝わらなかった