TF女主ログ | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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薬指に愛を




先日 地球の為に悪の生命体 ディセプティコンと戦った人間のヒーロー・サムを彼氏に持つ、
友人のカーリーが仕事を休んで、近くに住む私の家の門を叩いた。


「ねぇ見てナマエ!」

「わぁ…なあに、これ」


カーリーが嬉しげに見せてくれたのは、車か何かに使われてそうな歯車だった。正直、頭から足の指先までシャープで美人なカーリーが持つものとしては些か不恰好だ



「サムの愛車の子がね、くれたのよ」

「愛車の子…?…バンブルビーのこと?」

「そう!」


サムの愛車ことバンブルビーとは面識があった。
彼の家にカーリーの忘れ物を届けに行った時にたまたま鉢合わせしたのだ
その時はあまりのことに吃驚して慌ただしく取り乱してしまったところをバンブルビーに見られてしまった訳だが



「いまいち話が読めないんだけど…バンブルビーは何の目的でそれを貴女に?」

「サムとの結婚指輪に、ですって」

「結婚指輪!?」


結婚指輪にしては、カーリーの指が二本も三本も入ってしまいそうな大きさだ


「結婚ソングを歌いだしてね、とってもかわいかったの!」

「へぇ…」


バンブルビーがカーリーにくれた指輪…もとい、ギアを見る。何故だろう、少しカーリーが羨ましくなったのは、サムと言うお相手がいるからなのか








それからして、暫くカーリーと会話に花を咲かせていたのだが

不意にカーリーの携帯に着信が入る。
どうやらお相手は恋人からのようだ


「サムが一緒にフレンチでもどう?ですって。無理しちゃって」

「まあまあ 早く行ってあげたら?」

「そうね それじゃあナマエ、また電話するわ」

「ええ」


カーリーは去り際にナマエの頬にキスをした。

バカ、サムにでもやってあげなさい、と茶化せば

ダメ。調子乗るから、と言ってカーリーは颯爽と車に乗り込み、恋人の許へとアクセルを踏み込んだ


彼女の車影が見えなくなった頃に家に入ると、机の上のカーリーの忘れ物に気付く



「…カーリーったら……」



それは件のギアだった
これを忘れて行くところが、なんとも彼女の魅力であるのか

二人は家にはいないだろうが、とりあえずギアを郵便受けにでも入れておいて後でメールでもしておこう



そう考えたナマエは、そう遠く離れていない二人の家まで歩いて行くことにした



家が見えてくると、車庫が開け放されていた。

いつもは閉まっている其処を警戒しながら覗き込むと、
暗がりでごそごそ動いている存在が目に入った

それはサムのオンボロ車ではなく、サムの愛車の彼だった
自分にお尻(と呼んでも良いものか)を向けているサムの愛車に声をかける



「…バンブルビー、車庫の扉は閉めておかなきゃ目につくよ?」

《!?》


バンブルビーは背後からの声に驚いたのか、声をあげて飛び上がった。その拍子に、棚にぶつかり、オイルやスプレー缶やらがガラガラと落ちて来る。ゴツン、とレンチがバンブルビーの頭に当たった。バンブルビーは大袈裟に痛がって見せた



《“!、君は”…ナマエ…“ではないか!”》

「お久しぶり、バンブルビー。戦い、お疲れさま」

《キュウウウン……“君のいるこの星を護ることが出来て”、“本当に嬉しいよ”…》



バンブルビーは体勢を整えてナマエの正面に向かい合う。
その際に目についたのか、バンブルビーの目がナマエの手に握られているものに注目した


《…“それは…”》

「カーリーが私の家に忘れて行ったのよ。…貴方からもらったってはしゃいでたのに、薄情者でしょ?」

《“確かに!”“そいつは酷いな!”》

「だから郵便受けにでも入れておこうかと思っててね…」


バンブルビーはナマエの手に握られている小さなギアをそっと掴んだ。
急に伸びてきたバンブルビーの手にナマエは驚く


「…どうかした?」

《“これは、私から返しておくわ”“ここまで送ってくれてありがとう”》

「あら…そんなことしたらカーリーが気を使っちゃうわ。良いのよ、郵便受けに入れておいたら」

《“そうかな?”》



バンブルビーはそう言うと素直にサムの家の郵便受けにギアをぽいっと投げ入れた。
雑な扱いに何故か笑いが込み上げる


「…えらく雑ねぇ、貴方の一部だったんでしょう?」

《“思い入れは、ないよ”》

「……へぇ」



ナマエにある一つの考えが頭を過る


「私が頼めば、バンブルビーは私にもギアの指輪 くれる?」


バンブルビーは、キョトンとしていたが
ナマエの言った意味を処理出来たのか、
待ってて、と言うように手をナマエの前に翳し、
胸の部分のボンネットを開いた。

そして其処からバラバラと
カーリーがもっていたようなギアが何個か落ちて来た。
本当にこんな風にして出していたのか、と考えるとおかしかった。

バンブルビーは落ちて来たギアの中から何か選んでいるようだった


一回、ナマエの身体をスキャンし、またギアを見て考え込む



「…バンブルビー?」

《“よし!”》


バンブルビーは声を上げて、一つのギアを手にとった。
それを持ち、片方の手でナマエの手を丁寧に持ち上げる


「えっ、ちょ…!」


ナマエが反応するより先に、バンブルビーは慎重に持っていたギア――――ナマエの指にピッタリのサイズの――――をナマエの薬指に嵌めた
そして満足そうに頷いている


ナマエは取り乱しているが



「バ、バンブルビー?えと、これはどういう…」

《“指輪だよ”“君の長く美しい指にピッタリだ!”》

「…バンブルビー、薬指に指輪の意味、分かってるのかな…」



分かってるのか、
分かってないのか、


定かではないが、バンブルビーはナマエの薬指に嵌まった指輪を終始楽しそうに見つめていた。