TF女主ログ | ナノ
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Only My Girl !


帰りが遅くなる、とは言ったがまさか時計が12時を回って1時に到達する時間帯になるまでとは思わなかった。

独り暮らしだから家の人に心配がかかることはない。
しかし、同居"車"が心配をするのだ。

世界を悪の軍団から救った正義のヒーローは、友人のサムの愛車だった
バンブルビーは人懐っこくて、すぐにナマエとも仲良くなった。
しかし、サムが大学に入学してからバンブルビーは基地に停留するようになった。それでも時折住んでいた場所が恋しくなるのかこの街に戻ってくることがある。
その時はバンブルビーを我が家の車庫に泊めてあげている。サムに会えなくて淋しそうだったが、それでも私との交流で楽しそうにしてくれている姿を見ると嬉しくなった

今日も私が友人との集まりがある、と言うと≪キュゥゥゥゥン………≫と何とも切ない音を出して哀しみをアピールしてきた。バンブルビーのその「行かないで攻撃」をなんとかかわして、「11時までには帰ってくるから!」と言い捨てて出てきたのだ




しかしこんな時間になってしまった。


辺りに人気はなく、街路灯は一定の間隔を置いてポツポツと光っている
周りの民家にも電気はついてなく、星もあまり出ていない夜だ
風が吹いて髪を乱した。それにつられて棄てられていた空き缶がカラカラ…と音を立てて転がっていった



「……っ」



突如不安を認識する。夜に、アメリカの路地裏で、女が独り
これは、誰にでも分かること     "危険"、だ




早く、帰らなきゃ、バンブルビーが、心配する



焦る気持ちの理由をこれにする。考えるな、今ここに独りだということを忘れて、
走って帰ろう。自宅までは走って約20分だ。帰れない距離じゃない、走ろう
嗚呼何故こんな日に限って私はヒールなんか履いてしまったのだろう、




ナマエは意を決して、ハンドバッグを抱え直し駆け出した。

しかし一歩遅かった。"恐怖"は向こうから襲って来た
目の前に背の高い男が飛び出してきたのだ。民家と民家の間の壁の細い隙間に身を隠していたらしい。
帽子を目深く被った男が迫り来る恐怖に、彼女は在らん限りの声で叫び声を上げた。これで、誰でもいいから気付いて欲しかった。しかし周りの家々に動きは見られない

グローブをはめた手がナマエの口を強引に塞ぎ、もう片方の手で後ろから強く腰を抱き寄せた。

己の体を這いずり回るその手に嫌悪感がピークに達する。男はそのまま彼女を乱暴に住宅地の路地裏に押し込んだ。嫌だ、嫌だ、なんでこんな、!
男は無言だったが、馬乗りになり、息を荒くし、鼻息まで耳の裏で感じ取れてしまった。


「ひっ……!」


このままでは、駄目だ、このままじゃ、家に帰れない、穢されてしまう、



「はな、し、てっ…!よ、っ!」


持っていたハンドバッグで思いっきり男の顔を打った。
金具が目に入ったのか、男は「ぐっ…!」と呻いて身体に回していた手を両目に運んだ。それを見計らって渾身の力で男の股間を蹴り上げる。更に酷い痛みだったようで男は今度は何も発さず、もんどり打って地面に転がった。


「はっ、はぁっ…!」


急いで起き上がり逃げようと試みる。しかしそれよりも早く、男の手が彼女の右足首を掴んで引っ張った。



「きゃっ…」



顔が強かに地面に打ち付けられる。その痛みで一瞬意識が飛びそうになった。
男はもう一方の手で今度は左足首を掴み、己に向けてナマエを引き寄せる。
今度は前から馬乗りになり、男はナマエのスカートに手をかけた。

駆け上がってくる嫌悪感と恐怖に助けの声を上げることも忘れる



ああ、だれか、だれ、か

バンブルビー 、助けて







涙で滲む視界で見えたのは、自分に自分に跨る男の顔だけ。汚い醜い顔だ、たとえ今は、男がどんな顔の造りをしていたとしても、自分には醜い顔以外の何者にも見えない

動かしていた手は片手で一つに纏められ頭上に持っていかれる。
終わりだ、ああ、いまここでしにたい




「…っ、ぅ、   …バンブルビィイ…ッ!!」





力の限り叫んだ声に呼応するかのように、
エンジンが呻りを上げる音が聞こえた。




男がハッと顔を上げる。倒された体勢からでは音がした方向を見ることが出来ない。しかし解った。あの音が何の音なのか



エンジン元は、帰りの遅かったナマエを心配して見に来たバンブルビーだった。
場所がわからなかったので、当てもなく道を彷徨っていた結果、
先ほどのナマエの叫び声を聞いたのだ。自分を呼ぶその切迫した声に不安が過ぎる。
慌てて声の発生場所にまで飛ばすと、目の前には目当てのナマエがいた。男を上に乗せた状態で(いや寧ろ乗っかられている状態で)、しかも表情には紛れもない恐怖が刻まれていた

人間には友好的なバンブルビーだったが、大切なものに徒なすものは赦さなかった

バンブルビーのブレインに、"ナマエの救出"という事項が脳内を占めた



彼女を助けるのに姿を見せる云々で悩んでいるわけにも行かない。
バンブルビーはすぐに身体を変形させ、男に向かって一発威嚇射撃を撃った



「うわあっ!!」



パルス弾は男の頭上を横切って電柱に当たり、それを破壊した。
支えが利かなくなった電柱が男とナマエの上に落ちて来る。
「きゃあっ!」「う、うわぁあぁああ!」男に乗っかられているナマエは身動きが取れずに居たが、男は恐怖で動けないようだった。

バンブルビーは駆け出し、右手でナマエの身体を救い上げ、左手で電柱を抑える。
ナマエは瞑っていた目を恐る恐る開く。目に飛び込んできたのは、夜の闇の中でも光るように見える見慣れた黄色の車体



「…バンブルビー!」


≪……ガガッ、ガ、   『ナマエ』、  "無事で、良かった" ≫


ナマエの部分は己の声で、後の言葉はラジオの音声から、聞こえてくるバンブルビーの声に安堵が体中に染み渡る



バンブルビーは男を冷たく見下ろし、未だ尚自分を恐れに満ちた目で見上げてくるその存在に向けて左手の銃口を向ける。男は後ずさろうと試みたが、足が竦んで動けなかった



≪"彼女を傷つけた罪は重い"、"しかし"、"殺すわけにはいかないんだ…"  キ、キキキキ消エエエエエエロオオオオォォォォ……  ≫




男の身体を軽い力で、それでも男の身体が吹っ飛ぶぐらいの力で男を蹴飛ばし、逃げるよう促した。人間を私事で殺すわけにはいかない。如何にナマエの事であろうと。それは守らねばならなかった




男の姿が完全に消えてから、バンブルビーはナマエを手に抱えたまま荒々しくトランスフォームし、ナマエを車内に引き込む。
それは普段のような優しい動きではなく、怒りから来るぶっきら棒な態度だった
ナマエは改めてバンブルビーにお礼を言った。カーステレオからは≪"気にするな"≫と素っ気無い返事が返って来た




「…ごめんね、バンブルビー……」

≪………≫


ハンドルに手を置いて呼びかけても、バンブルビーは無言だった。
しかしバンブルビーの発する金属音は聞こえる。怒っているのではない、心配しているのだ



「私が……遅くなったのがいけないんだよね、…ううん、やっぱりバンブルビーを一緒に連れて行ってたらこんな、面倒くさいことには…」

≪"違う!" "僕が怒っているのは、そんなことじゃないんだ!" "君のことが心配で…" "無事で良かった" "今、心の底から、そう思うよ" ≫

「うん…ありがとう、バンブルビー、本当にありがとう…本当に…」

≪"どういたしまして" "やれやれ、" "もうあんな思いは ごめんだよ…" ≫



漸くバンブルビーは許してくれたようで、カースレテレオからはナマエお気に入りの歌手の歌が流れ出した。
その歌は恋人に愛を誓う男の気持ちを歌った曲だった。
バンブルビーの選曲に、クスッと笑いが零れた。そのナマエの様子を見て、バンブルビーも嬉しくなった

勢いよくアクセルを踏み、ナマエの自宅を目指す。走って15分の距離、車では5分の距離を、バンブルビーはなるべく遅く、ゆっくりとした速度で走った。
それをナマエは咎めなかった。出来るだけ長く、バンブルビーの空間に居たかったから



翌日、ナマエを襲った男は警察に連行されていた。近所でニュースになっていた、通り魔的痴漢犯はあの男だったらしい。危うく自分も危ない目に…と言ったところで
助けに来てくれた友人の愛車の愛しい彼の為に、今日は天気もいい事だから洗車してあげようと身を乗り出した。