とうとうレッドフットとトップスピンの小言が夢にまで出てくるようになった
≪おい!また間違えてるぜナマエ!≫≪女だからって、俺達は甘く見ないからな!≫≪すぐにレンチを構えろ!直せ!≫…!…夢、か
どうやら仕事中だったのに転寝をしてしまったらしい。ナマエは慌てて飛び起きる。右手には夢で言われた通りレンチを、左手は凭れ掛かっていた手摺の柱を掴んでいた。ツナギは寝汗で少し濡れていた。腰につけていたタオルで顔の汗を拭う
階下でナマエを呼ぶ声が聞こえ、振り返るとエップスがこちらに向かって手を振っている
「おい、ナマエ レッドフット達がお怒りだぜ?」
「わわわっ、今行く!!」
慌てすぎて、キャットウォークの階段を一段踏み外してしまう
「!!」気付いた時には身体は宙に放り出されていた。
迫り来る地面
せめて受身でも、と身体を動かしたが、それよりも先に冷たい金属の何かに受け止められる
痛みが思った以上のものではなかったので、
恐る恐る目を開けると、呆れた表情のロードバスターが居た
「ロッ、ロードバスター!?」
≪あんまりレッドフットが煩いんでな 迎えに来てやったんだよ≫
「あ、ありがとう…」
インパラにトランスフォームしたロードバスターに乗せてもらい、レッドフットたちの許に急いだ。だが、もう既に該当者達はお怒りだった
≪ナマエーー!!≫
「わー!ごめんなさーい!」
≪どうせまた、どっかで居眠りでもしてたんだろ?≫
「…面目ないです…」
≪ズルいぜナマエ!俺だって早く仕事終わらせてデイトナにありつきたいってのに!≫
≪まぁ落ち着けよトップスピン≫
ロードバスターが間に入ってくれたおかげで、いつもよりかはお叱りが少なかった
≪早く持ち場に戻れよ≫とだけ言い残し、レッドフットは、その少し豊満すぎる腹部パーツを揺らしながら自身も持ち場に戻った
仲介してくれたロードバスターにお礼を言う。いいからお前も早く行け、と言い返されたが、レッドフットたちの言葉ほど棘はない
ナマエは女の身でありながらNASAの技術局部のエリートであった
父の影響で車弄りと機械弄りが好きで、それが功を成し仕事に繋げることが出来た
NASAに勤めている自分を誇りに思うし、オートボット、と言う未知の種族と知り合い、協力して仕事をすることもとても楽しいことだった
レッドフットやトップスピンやロードバスター達は、まだ人間に対してとっつきにくいところもあったが、それでも当初に比べれば格段にマシになった方だ。その初め、を知っているナマエはレッカーズにきつい言葉を言われようが気には病まない
「お、来たなナマエ」
「ごめんねエップス 遅れちゃって」
「アンタが来ないと始まらない。俺達はただの木偶の坊にさせる気か?」
現場主任を務めるナマエの指示で動くエップス達。その言葉は嫌味でもなんでもない、仲間同士の言葉だ
「さっさとやろっか レッカーズとメアリングさんに怒られない内にね」
「ナマエ、お前どっちが恐いんだ?」
「人間の方に決まってるでしょエップス」
「違いねぇ」
― ― ―
一日のノルマを終えて、自由時間にありつけた
デイトナサーキットに群がるレッカーズ達を眺めながら、ナマエとエップスも一息吐く
「ほんと、子どもみたい」
「レノックスが、NESTに停留してる奴等をティーンエィジャーと称してたが、こいつ等も同様だな」
「ええ」
ブラックの缶コーヒーを傾けていると、ロードバスターが此方を振り返りナマエと視線を合わせる
≪ナマエもこっち来て一緒に見ようぜ≫
「えぇ…?」
≪おお、そうだな。こっち来いよナマエ!≫
「そこまで誘われちゃ、仕方ないね」
「おい、お前ら 俺は誘わないってのか」
≪それじゃあエップスも来るか?≫
「じゃあ、って何だオイコラ」
エップスがレッドフットに文句を言いながらも、レッドフットとトップスピンの間に腰を落ち着けるのを見て、ナマエもロードバスターとトップスピンの間、心持ちロードバスター寄りに腰掛ける
「お邪魔するねロードバスター」
≪?邪魔なんかじゃないが?≫
「…そう言ってくれるなら、嬉しいよ」
「ロードバスターは、ナマエには紳士だな」
≪ローブ、"コレ"か?≫
≪ローブって言うな、コレってすんな≫
人間用だったものを少し改良して大きくした、レッカーズ達とも映像を楽しめるように作られたTV。立案者はエップスで、拵えたのはナマエだ
今、そのTVの前で楽しくワイワイしながらデイトナを観賞する、この時間が楽しくてたまらない。レッドフットのお小言は、こんなところでも発揮されるが、大した問題ではない
≪明日は遅れるんじゃねぇぞナマエ≫
「分かったわかった」
≪とか言って、ナマエはいつも何処でも寝ちまうじゃないか≫
「ナマエの居眠り癖はもう凄い領域だからな」
≪しょうがねぇな もし遅れたら、俺がまた迎えに行ってやるよ≫
「お世話になりますロードバスター…」
「今度、ナマエ用の携帯目覚まし時計でも作るしかねぇようだな」
≪それなら俺がとっておきのを作ってやるよ≫
「よろしく頼むよ、トップスピン」
さぁ、明日も頑張ろう