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帰り道は忘れた


・時間軸は3の前
・原作展開総無視
・夢主30歳後半、獣医設定






ナマエにとって外の世界がどうなっていようと関係が無かった

ただ一人、この自然と動物に囲まれた森の奥地でひっそりと隠者のように余生を過ごす
他人とは関わりたくなかった自分にとって、最高の楽園だった。人間は嫌い。動物、生物は好き



そんなナマエの楽園に、土足で踏み入ってきたのはナマエが嫌う人間と言う生物ではなかった。もっと強大な、金属の生命体





≪うぅ…っ、≫

「………」





家の中で食事を摂っていたら、窓の外で大きな音が聞こえた。何かが地面に勢いよく墜落してきた音
人間か、と警戒し、窓の隅から少し覗けば人間の兵器としてはいやにゴツゴツしい戦闘機
中に人が乗っているならば、怪我をしているかもしれない
関わり合いにはなりたくはなかったが、人命がかかっている話ならばそれはそれでこれはこれ
家にあった仕事用の救急バッグを手に取って外に駆け出した











 これは、なに?





ナマエがその"物体"を見て真っ先に考えたことだ

バッグを探している間はその落下物から目を放していた
するとどうだ。落下物は、先ほどまでの航空機の面影なんて微塵も残しちゃいなかった
金属が露出した身体、恐ろしい形相をした、人ではない顔のもの、その手足は鋭利に尖り、どうしたのだろう右側の額から目にかけては無残にも中身があちこちに飛び出している。落下した際に出来た傷ではないだろう、何かに抉り取られてしまったような…


その"物体"がナマエに視線を寄越す
怯んだナマエとは反対に、その物体は鋭利な爪をナマエに構えて見せて来た



「……っ!」



喉が恐怖によってへばりついてしまったようだ、一言も声を発せない
慄いたナマエに、気分をよくしたのかは計りかねるが、その物体は口元を歪ませる



≪……人間の、女か≫

「………、…」

≪去れ。俺から離れろ≫




そこで立ち去れば良かったのだが


ナマエの足は、凍りついたように動かない
それは恐怖から来るものと、ナマエのある使命感から来るものだ


『人間ではないならば、殊更面倒を看てやらなければ』


森の動物達を助けてきていたナマエの思考回路は愚かな結論を導き出す
この物体は人間ではない。かと言って動物でもない。だが生命体だ。怪我をしている。助けなければ、




「…………き、ず」

≪何?≫



「てあ、て、…しなくては…」


≪……手当て、だと…?≫



金属の生命体は構えていた爪を少し弛緩させた。理解に苦しんでいるのだ



≪…虫けら、貴様は今己が何を言っているのか分かっているのか?≫

「わ、分かってるつもり…です」

≪俺の言っている意味は分かるか?≫

「……お話、上手ですね…」

≪ならば何故立ち去らんのだ。恐ろしいだろう?俺が≫

「…」


黙って頷く。恐怖は感じているが、話の通じる相手だと分かり会話を交えていると段々と冷静に落ち着けるのは人間の適応能力のお陰かもしれない



「…でも、怪我を負っている子を、放ってはおけないわ」

≪………子、だと?フン、呆れたものだな。人間と言うのはこうも愚かしい莫迦な奴しか居ないのか。貴様に俺の傷が治せると本気で思ってるのか?≫

「私は、獣医ですもの…」

≪…やはり、唯の莫迦か≫



そう吐き捨てた金属の物体は出していた手を引っ込めて、億劫そうに座りなおし、古木に身体を預けた

大人しくなったかな、と様子を見ていたが、襲い掛かってはこないような雰囲気を感じ取ったナマエは金属の物体に近付く。物体は好きにさせる、と言うようだ



「……貴方、お名前は?ある?」

≪ある≫

「何て言うのかしら」

≪……まずは貴様から名乗れ≫

「あ…ごめんなさい、 私はナマエ 獣医ですけど、ここで隠者の真似事みたいなことして生活してます」

≪余計な情報だ ――メガトロン≫

「メガトロン…?貴方の名前?」

≪………≫



それ以上金属の物体――メガトロンは何も答えなかった

まずは腕の怪我を診てみる。確かにこれはナマエの力では治せない。全ての部分が金属で出来ているのだ。血管と思しきコードでさえも



「……これは、無理、ね」

≪最初からそう言っている。自己修復能力がある、一定の時が経てば回復する。貴様は要らん≫

「…残念 動けるの?」

≪………≫

「…無理、なようね」



押し黙ったメガトロンに、ナマエはニコリと微笑む



「なら此処に居ればいいわ」

≪…何?≫

「ここは人間はめっっっったに来ることはないし、余計な空気も無いから怪我の治癒には環境的にピッタリだと思うわ」

≪そんなことに意味があるわけないだろうが≫

「あるわよ。騙されたと思って、此処で数日間ゆっくりしていったら?動物も居るし、飽きないと思うけど」

≪…貴様は俺を何だと思ってるんだ≫

「……傷だらけのライオン、だと思っておくわ」



バッグを片付けてメガトロンの身体から離れたナマエ
もうすっかり恐怖心はなくなっていた



「お仲間とか、いるの?」

≪いるには、いる≫

「そう 呼ばないの?」

≪……時が来ればな≫

「それなら、その時が来るまで、安静にね」

≪…………≫



今度は何も言わなかった。それが彼なりの肯定だと勝手に解釈した





家から8m離れた場所で、腰掛け佇んでいる奇妙な金属の生命体
しばらくの間、ナマエは専ら彼の許でばかり時を過ごしていた
メガトロンの方も、時が経つにつれ諦めがついてきたのか、ナマエのことをぞんざいに、だが見ていることが多くなった




「メガトロン 今日は雨が降りそうなんだけど、このブルーシートでも被っておく?」

≪…必要ない≫

「駄目 被ってなさい。冷えちゃうから」

≪…ならば最初から訊くな≫

「一応よ、一応」





「………メガ…… フフフッ」

≪笑うな!!こ、コイツ等が勝手に…≫

「皆メガトロンが安全だって認識したんだわ、動物に好かれる人に、悪者はいないってね」

≪…ぐっ…、!おい、ナマエ!何を…!≫

「メガトロン、ずっとお日様の陽に当たってるから温かくて…眠たいから私も皆と一緒になって寝るわ〜」

≪ま、待て!≫

「ちょっと…膝借りるわねメガ……ン………… … …」

≪……(ぐ、軍の奴等には絶対に見せられんぞこの光景…!!)≫




それはナマエの人生の中でも、

とても奇妙で、とても心穏やかな、短い数日間であった